湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

なぜ草津の地価は上がり続けるのか?データで読み解く不動産価値の成長モデル

草津市で土地を探し始めると、多くの人がその価格の多様性に驚かされます。
草津駅西口の一部では坪単価150万円を超える地点も見られる一方で、車で少し走った郊外ではその数分の一になることも珍しくありません。
「草津の土地は高い」という共通認識の裏側には、エリアごとに全く異なる価格の付き方が隠されています。

大津の地価が持つ読み解くべき複雑さや、栗東の内需に支えられた安定性とは異なる、この街の力強い上昇の動き。
その数字の裏に隠された、草津の心臓の鼓動を、少しだけ聞いてみることにします。

この記事のポイント
  • 草津は「人口」と「産業」という二つのエンジンが、県内他市とは一線を画す「自律的な地価上昇」を持続させている
  • 再開発で沸く「駅前の投資的価値」と、車社会が支える「郊外の実用的価値」が、同心円状に棲み分ける明確な階層構造を持つ
  • 資産性を重視して時間を買う「駅近」か、居住性を優先して広さを買う「郊外」か。土地選びがそのまま「資産戦略」の分岐点となる

JR草津駅西口のロータリーの風景

出典: JR Kusatsu Station West Side by Haruno Akiha~commonswiki, licensed under CC BY-SA 3.0.

滋賀を牽引する「双核」の市場構造

草津市の地価構造を俯瞰して眺めると、そこには明確な「二つの熱源」が存在することに気づかされます。南草津駅と草津駅。この二つの核が放出するエネルギーが同心円状に広がり、市全体の地価を押し上げている構図です。
滋賀県地価調査 ↗の結果を見ても、県内全体の地価が緩やかな動きを見せる中で、草津市だけが商業地・住宅地ともに際立った上昇トレンドを描き続けています。

これは単なるバブル的な高騰ではなく、数字に裏付けられた実需によるものでしょう。データで見るJR西日本 ↗が示す通り、この2駅の乗車人員数は県内1位と2位を独占しています。人が集まり、住まいを求め、経済が回る。このシンプルな循環が、草津の不動産市場を県内でも特異なポジションへと押し上げているのです。

歴史と革新が交差する最高峰|草津駅周辺エリア

【最高価格帯エリアの代表例】草津駅西口周辺。再開発による街の更新が続き、県内最高水準の地価を維持しています。

まずは市の心臓部、JR草津駅周辺へと視点を移します。
特に西口の大路西渋川といったエリアは、県内でも別格の価格帯を形成しています。東海道と中山道が交わる宿場町としての歴史的な厚みの上に、現代の再開発という新しいレイヤーが重なり、他にはない価値を生み出している場所です。

160万円超の衝撃と「立地適正化」の裏付け

具体的な数字を挙げると、令和7年の滋賀県地価調査 ↗において、商業地である「草津5-8(大路1丁目)」の地価は1平方メートルあたり約49万円。これを坪単価に換算すると約162万円にもなります。
住宅地としての利用も混在するエリアですが、この数字は県内の他の住宅地と比較しても突出しています。

この強気な価格を支えているのは、利便性だけではありません。
草津市が策定した立地適正化計画 ↗において、このエリアは都市機能や居住を特に誘導すべき「都市機能誘導区域」の最重要拠点として位置づけられています。行政がインフラ整備や再開発を重点的に行うという、いわば将来への約束手形があるからこそ、資産としての安定感が担保されていると言えるのかもしれません。

「商業地域」の容積率が描く、タワマン林立の必然性

もう一つ、このエリアの価値を高めている見えない要因として「容積率」の高さが挙げられます。駅周辺の「商業地域」は、土地に対して建てられる建物の延床面積の割合、つまり容積率が非常に高く設定されています。
これは、同じ広さの土地でも、より高く、より大きな建物を建てられる「土地のポテンシャル」が高いことを意味します。

タワーマンションが林立できるのは、この法的な枠組みがあるからです。
土地の価格は、その上にどれだけの空間を作り出せるかという「権利の価格」でもあります。将来にわたって高度利用が可能であるという事実は、現在進行中のプロジェクトを呼び込み、それがさらなる地価上昇の呼び水となる循環を生んでいます。

若さと利便性が街を育てる|南草津駅周辺エリア

【高価格帯エリアの代表例】南草津駅周辺。大学と住宅地が近接し、若い世代の流入が絶えないエリアです。

歴史ある草津駅から南へ目を向けると、そこには全く異なる成り立ちを持つ街、南草津が広がっています。野路追分南といったエリアは、区画整理された整然とした街並みが特徴で、子育て世代からの熱烈な支持を集めています。

乗車人員県内トップクラスが支える底堅さ

地価公示 ↗のデータを見ると、「草津5-6(野路1丁目)」の地点で1平方メートルあたり約34万円(坪単価換算で約113万円)という高い数値を示しています。これは商業地としての評価ですが、周辺の住宅地であっても坪単価60万円〜80万円台で取引されることは珍しくありません。

このエリアの強さは、なんといっても「人」の多さです。
立命館大学のキャンパスへ向かう学生や、京都・大阪へ通勤するビジネスマン。JR西日本のデータでも、南草津駅の乗車人員は草津駅と並び県内トップクラスを誇ります。この「人が集まる」という物理的な事実が、商業施設の撤退リスクを下げ、地価の下支えとなっています。

「生産年齢人口」の厚みが約束する、街の新陳代謝

不動産価値を維持する上で、「誰が住んでいるか」は重要な指標です。
草津市の人口・世帯数の異動状況 ↗などの統計資料を見ると、このエリアは県内他市と比較しても、生産年齢人口(15歳〜64歳)の比率が圧倒的に高いことが分かります。

働き盛りの世代が多く住むということは、住宅の売買が活発に行われる「流動性」が高いことを意味します。
将来、ライフスタイルの変化で家を手放すことになったとしても、次の買い手が見つかりやすい。この「売りやすさ」という安心感が、守山や栗東といった近隣都市との差別化要因となり、資産価値を強固なものにしています。

暮らしの余白と利便性の均衡|湖岸・中間エリア

【中価格帯エリアの代表例】矢橋町周辺。浜街道沿いに商業施設が充実し、車生活の利便性が高いエリアです。

駅前の熱気から少し離れ、琵琶湖へと続く風通しの良いエリアへ移動してみましょう。矢倉木川町、そしてイオンモール草津を擁する矢橋町新浜町などがここに当たります。ここでは、価格と住環境のバランスが少し変わってきます。

地価とリスクのグラデーション

滋賀県地価調査 ↗のデータでは、例えば「草津-10(木川町)」で約10万円/m2(坪約33万円)、「草津-13(新浜町)」で10万円台後半(坪約35万円)といった数値が見られます。
駅前と比較すれば手頃感がありますが、それでも県内の他の地域と比べれば十分に高い水準です。

「水」との距離感が決める、見えない建築コスト

このエリアで土地を選ぶ際、忘れてはならないのが、かつて内湖であった、あるいは天井川の近くであるという土地の記憶です。表面上の土地価格は割安に見えても、地盤が軟弱であれば、地盤改良工事や高基礎といった「防災コスト」を建築費に組み込む必要があります。

ハザードマップで浸水想定区域を確認することはもちろんですが、土地の成り立ちを知ることで、トータルの予算配分が見えてきます。建物にお金をかけるために土地代を抑える、という戦略は有効ですが、その土地が求める「安全のための追加費用」を見落とさない冷静さが求められます。

静穏な環境で描くゆとり|郊外エリア

【比較的価格が安定しているエリアの代表例】志津エリア。開発規制により、ゆとりある住環境が守られています。

最後に、都市の喧騒が届かない、緑豊かな郊外の静けさの中へ。市の東部や北部に広がる、志津笠縫といったエリアです。
ここでは、駅からの距離と引き換えに、広々とした敷地と静かな住環境が手に入ります。

「調整区域」と隣り合う価値の安定性

地価調査 ↗の「草津-16(青地町)」では8万円台後半/m2(坪約29万円)、「草津-14(穴村町)」では3万円台/m2(坪約10万円)といった数字が並びます。駅前エリアの数分の一の価格で、広い土地を手に入れることができます。

地区計画が守る「最低敷地面積」というゆとり

このエリアの価値を支えているのは、実は「規制」です。都市計画マスタープラン ↗などに基づき、多くの場所で地区計画による最低敷地面積の制限が設けられています。
これは、土地を細切れにして小さな家を乱立させる「ミニ開発」を防ぐための防波堤です。

隣の家との距離が保たれ、日当たりや風通しが将来にわたって保証される。
この「ゆとり」が担保されていることこそが、郊外エリアを選ぶ最大のメリットかもしれません。車移動が前提となりますが、静かな環境で子供をのびのび育てたいと願う家族には、最適な選択肢となるでしょう。

数字を押し上げる「3つのエンジン」の正体

これら全てのエリアを底上げし、草津市の地価が力強い推移を続けている背景には、単なる人気投票では片付けられない、構造的な「駆動力」が存在します。

まず見逃せないのが、人の流れそのものの勢いです。市の統計データ ↗を追うと、転入者が転出者を上回る「社会増」だけでなく、出生数が死亡数を上回る「自然増」も維持されてきたことが分かります。若い世代がこの街を選び、そこで子供を産み育てる。この人の循環こそが、住宅需要という熱を絶やすことなく薪をくべ続けているのです。

京滋バイパスの起点を示す道路標識

出典: Route 1, Keiji bypass start point by 運動会プロテインパワー, licensed under CC BY-SA 4.0.

そして、その熱を市外、県外へと運んでいるのが、堅牢な交通の背骨です。新快速が停まる二つの駅に加え、国道1号線、京滋バイパス、新名神高速道路といった動脈が太く、速い。京都や大阪への通勤だけでなく、県内の工業団地へのアクセスも容易なこの環境は、住む人の働き方を限定しません。

さらに、その足元を支えているのが、力強い産業基盤です。
草津市統計書 ↗に見る製造品出荷額の高さは、この街が単なるベッドタウンではないことを証明しています。かつての「テクノポリス」構想から続く先端産業の集積は、地域内に安定した雇用を生み出し、それが住宅取得能力の高い層を厚くしています。

熱量の中心か 穏やかな周辺か

草津の力強い成長の中心に身を置き、その熱量と共に資産を育むのか。
あるいは、その熱から少し距離を取り、自分たちだけの暮らし方を描くのか。

初期投資は高額になりますが、駅近の土地は将来的なリセールバリューが極めて安定していると考えられます。
一方で、郊外で土地の価格を抑えれば、浮いた資金を建物の性能向上や、子どもの教育費といった「経験」に振り分けることもできます。

10年後、再開発で姿を変えた草津駅西口の新しい風景を眺めながら、人々はこの街の「熱量」をどう感じているのでしょうか。
その時、「この場所で良かった」と思えるかどうかは、今の私たちの想像力にかかっているのかもしれません。

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※価格情報に関する注記:この記事で言及している坪単価は、近年の公示地価や市場の取引事例等を基にした、あくまで目安の数値です。実際の不動産価格は、個別の土地が持つ形状、面積、方位、法規制、インフラの状況など、様々な要因によって変動します。
土地のご契約に際しては、必ず地元の不動産会社や行政の担当窓口にご確認の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。

更新履歴:2026年1月19日

最新の公表資料(令和7年滋賀県地価調査、草津市統計書、立地適正化計画等)に基づき、地価動向の分析およびエリア別の解説文を加筆・修正しました。

(参照:国土交通省 地価公示土地代データ(草津市)滋賀県 地価調査地価公示の公表資料(滋賀県における概要)草津市 都市計画マスタープラン草津市立地適正化計画草津市 統計書データで見るJR西日本 等)