草津市の都市計画図は、駅を中心に商業地域、住居地域と、まるで波紋が広がるように綺麗な円を描いています。ところが、大津市の用途地域図を広げてみると、市街地はあちこちに飛び、用途地域の色分けは複雑に入り組んでいることに気づきます。
不動産サイトで気になる土地を見つけても、その隣の空き地が将来どうなるのか、直感的に読み取れない。その戸惑いこそが、大津という都市の成り立ちを理解する出発点になります。
なぜ、これほどまでに「分かりにくい」のか。ここでは、その複雑なパズルを、街が歩んできた歴史と、山と湖が作り出した地形という、二つの視座を使って解き明かします。
|
この記事のポイント
|
- 都市構造を規定する二つの要因
- 歴史が描いた消せない線:多核心構造の成り立ち#宿場町と城下町
- 地形が描く境界線:山と湖に規定された市街地#市街化調整区域
- 用途地域別:10年後の風景予測
- 第一種低層住居専用地域:計画された「静寂」の維持#絶対高さ制限
- 第一種中高層住居専用地域:人口維持のための「代謝」#居住誘導区域
- 第一種住居地域:道路幅員が守る「ヒューマンスケール」#歴史的風致
- 近隣商業地域:再開発が示す「ウォーカブルな転換」#RePort構想
- 総括:未来を読み解く地図の捉え方
- 都市計画図が語る「変化の速度」と資産価値#住環境の予測

出典: Otsu at the south end of Lake Biwa in Shiga prefecture by Gpwitteveen, licensed under CC BY-SA 4.0.
歴史が描いた 消せない線
大津の都市計画が持つ独特の複雑さは、この街が積み重ねてきた時間の層に由来します。
江戸時代、東海道の宿場町として栄えた浜大津周辺が最初の「核」となりましたが、近代に入り鉄道(現在のJR琵琶湖線)が山側に敷設されたことで、膳所や石山といった新たな核が生まれました。
さらに京都と直結する京阪線が縫うように走り、交通の軸が分散したことで、単一の中心地を持たない多核心的な都市構造が形成されています。
行政もこの構造を認識しており、大津市都市計画マスタープラン ↗では「コンパクト+ネットワーク」という方針を掲げ、点在する拠点(駅や集落)を公共交通で結ぶまちづくりを進めています。
用途地域図がモザイク状に見えるのは、歴史の中で生まれた複数の拠点を、現代の都市機能としていかに維持するかという、街の意思の表れとも言えるでしょう。
地形が描く 境界線
歴史の積層に加え、大津の都市計画を決定づけているのが、比良・比叡の山々と琵琶湖に挟まれた「地形」です。平地が極めて限られているため、市街地は湖岸に沿って南北に細長く伸びざるを得ません。
おおつデータブック2025 ↗の人口・面積データを見ても、広大な市域面積に対して可住地がいかに少なく、その狭いエリアに人口がひしめき合っているかがよく分かります。
この厳しい地理的条件の中で、街の無秩序な拡散を防ぐために引かれたのが、「市街化区域」と「市街化調整区域」の境界線です。
仰木や田上といった山麓に近いエリアで土地を探す際、この境界線の一本内側か外側かで、その土地の運命は大きく分かれます。調整区域であれば、原則として新たな建築は制限され、10年後も今ののどかな風景が残る可能性が高い。一方、生活インフラの整備状況や資産としての流動性は、市街地とは全く異なるものになります。
大津京駅周辺。西側はすぐに山が迫り、市街化区域が限られていることが分かります。この地形が、大津の都市計画の展開を規定しています。
用途地域から読み解く 10年後の風景
この複雑な地図を、自分たちの住宅計画にどう活かせばいいのか。
そこで、都市計画のあらまし2024 ↗や各種計画書の意図を、大津の具体的な街の風景に当てはめて読み解いてみましょう。そこには法的に「変われない場所」と、政策的に「変えようとしている場所」が明確に区別されています。
第一種低層住居専用地域:計画された「静寂」の維持
皇子山の山手や松が丘、仰木の里などが該当します。
このエリアの将来像が「静寂の維持」であると言い切れる最大の根拠は、用途地域に付随する「絶対高さ制限(10mまたは12m)」にあります。マンションを建てようとしても物理的に3階建て程度までしか建築できないため、開発事業者にとって収益化が難しく、大規模な開発圧力が及びにくい構造になっています。
さらに多くのエリアで「風致地区」や「建築協定」が重層的に指定されており、建ぺい率も厳しく制限されています。これらは、比叡山や田上山系から琵琶湖へ続く「緑の骨格」を守るための防衛ラインです。10年後も、隣に突然高い建物が建つリスクは構造的に排除されており、資産としての「環境の質」は強固に守られ続けるでしょう。
大津市松が丘周辺。絶対高さ制限と風致地区の指定により、将来にわたって高層建築が建たないことが制度的に担保されています。
第一種中高層住居専用地域:人口維持のための「代謝」
石山駅周辺の山手側や瀬田の一部など、主要駅や大学に近いエリアです。
おおつデータブック2025 ↗の人口統計を見ると、大津市全体で人口減少が始まる中、南部エリア(瀬田・石山)は人口が維持・微増傾向にあります。これは偶然ではなく、行政がこのエリアをマスタープランで「地域拠点」と位置づけ、「居住誘導区域」として積極的に人口を集めようとしている結果です。
大学や企業が集積し、ICへのアクセスも良いこの地は、大津市の人口ダムとしての役割を担っています。そのため、古い社宅や低利用地が中高層マンションへ建て替わる動きは、今後10年も止まらないでしょう。ここでは「変化すること」が前提であり、眺望や日当たりは「永続する権利」ではなく「変化しうる条件」として捉える必要があります。
JR瀬田駅周辺。市の「居住誘導区域」に含まれ、人口集積を支えるために中高層マンションへの更新が続くエリアです。
第一種住居地域:道路が守る「ヒューマンスケール」
膳所の旧市街地や国分周辺など、旧東海道の宿場町や城下町の記憶を残すエリアです。
滋賀県都市計画基本方針 ↗でも触れられているように、ここでは「歴史的風致」の保全が重視されていますが、それ以上に開発を抑制しているのが「道路幅員の狭さ」という物理的制約です。
大型車が入れない路地奥には、大規模なマンションや商業施設は建設できません。結果として、古い町家がカフェに変わったり、小規模な宅地開発が行われたりする程度の「緩やかな更新」にとどまります。この制約こそが、10年後もヒューマンスケールな(歩いて心地よい)街並みが残る最大の保証と言えます。
JR膳所駅周辺。狭隘な道路網が大規模開発を阻み、結果として新旧が混在する独特の空気感が保たれています。
近隣商業地域:再開発構想が示す「ウォーカブルな転換」

出典: Otsu port05s3200 by 663highland, licensed under CC BY-SA 3.0.
大津駅、石山駅、そして浜大津周辺など、都市機能の集積地となるエリアです。
一般的に「再開発」といえば高層ビルの建設ラッシュを想像しますが、大津の港湾エリアでは明確に異なるビジョンが動いています。県が策定した大津港活性化・再整備基本構想 ↗では、「Re:Port(港の再定義)」を掲げ、港湾エリアを単なる観光客のための場所から、市民が日常的に散歩や釣りを楽しみ、カフェでくつろげる「暮らしの港」へと転換する再開発の方針を打ち出しています。
これは、再開発のベクトルが「建物の高層化」だけでなく、「足元の居心地の良さ(ウォーカブル)」に向かっていることを意味します。10年後のこのエリアは、単に便利なだけでなく、琵琶湖という圧倒的な自然資本を日常使いできる、質の高い生活拠点へと進化している可能性が高いでしょう。
一方、石山駅周辺は、南部の交通結節点として、商業機能と都市型住宅の集積が加速しています。ここでは「Re:Port」のような親水空間への転換よりも、駅前の利便性を最大化するための再開発や建物の更新(メタボリズム)が中心となり、職住近接の活気ある街並みが維持・発展していくと考えられます。
JR石山駅周辺。商業機能の集積に加え、駅前広場など既存ストックの活用により南部の拠点としての求心力を高めています。
都市計画図が語る「変化の速度」
用途地域の色の違いを見ていて気づくのは、それが街の変わる「スピード」を表しているということです。
皇子山や松が丘のような第一種低層住居専用地域は、変化をあえて遅くしている場所です。10年後も、今の環境がそのまま残っている可能性が高い。行政が法的に「変えないこと」を保証しているエリアだからです。
対照的に、石山や瀬田、そして浜大津のような商業系地域は、「Reborn(再生)」や「Renovation(更新)」を繰り返します。古い倉庫が新しい文化施設に変わり、駐車場が週末のマルシェになる。その変化こそが、街の活力そのものです。
土地を探すとき、私たちはつい「今の見た目」や「雰囲気」で判断してしまいがちです。
しかし、都市計画図に引かれた一本の線を見れば、その土地が将来どうなるか、ある程度の予測がつきます。南側の空き地に何が建つ可能性があるのか。窓からの眺めはずっと守られるのか。
この無機質な図面に引かれた線こそが、客観的な事実として、10年後の日常を教えてくれます。
変わらない穏やかな時間を買うのか、変わりゆく街の鼓動を楽しむのか。
地図を片手に街を歩くと、今まで見えなかった「10年後の隣家」の姿が、少しだけ見えてくるように感じます。
住宅計画全体の流れを確認する
この記事のテーマについて、理解が深まったかと思います。この知識を住宅計画全体のどの段階で活かすべきか、一度立ち返って確認してみませんか?
土地探しから資金計画まで、住宅計画の全工程を網羅したまとめページをご用意しています。
あわせて読みたい記事
- なぜ大津の地価は草津ほど上がらないのか?構造的な理由と主要駅別の坪単価・資産価値
- 歴史の「大津」か、成長の「草津」か:住みやすさ・通勤・教育環境から見る、二つの都市の本質
- 山の手か、湖岸か:大津の土地選びにおける、二つの文化圏という選択
- 草津の成長は、大津に何をもたらすか?隣接都市の再開発が描く新たな生活圏の可能性
※都市計画情報に関する注記:この記事で解説している用途地域や都市計画に関する内容は、執筆時点の公表資料や一般的な都市発展の傾向を基にしたものです。市の政策変更などにより、将来的に変更される可能性があります。
土地のご契約や建築計画にあたっては、必ず大津市の都市計画課など、行政の担当窓口で最新の公式情報をご確認の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。
更新履歴:2026年2月13日
2026/02/13:ユーザビリティ向上のため、記事の冒頭に目次を追加しました。
2026/01/18:最新の公表資料(大津港活性化・再整備基本構想、おおつデータブック2025等)に基づき、各用途地域の将来予測および解説文を加筆・修正しました。
(参照:大津市都市計画マスタープラン、都市計画のあらまし2024、おおつデータブック2025、滋賀県都市計画基本方針、大津港活性化・再整備基本構想、大津市の環境(令和5年度版) 等)