湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

数字の裏側にある現実:草津の「保活」から逆算する、後悔しない土地選び

子育て世帯に人気の街、草津市。駅前の利便性、豊かな自然、充実した商業施設。住宅計画を進める場所として、これ以上ないほど魅力的に映ります。
しかし、いざ「保活」と呼ばれる保育園・幼稚園探しを始めると、多くの家庭がひとつの事実に直面します。「こんなはずじゃなかった」と。

草津市の待機児童数は、公式発表では非常に少なく見えます。その裏側で、希望する園に入れず、毎日の送迎に頭を悩ませる家庭は少なくありません。
大津の複雑なパズル守山の平坦な自転車文化とは質の違う、近代的な都市開発のスピードが生んだ歪みと、熾烈な椅子取りゲーム。
その実情を知らずに土地を決めてしまうと、後々の暮らしの足かせになることさえあるのです。

この記事のポイント
  • 待機児童数は氷山の一角。0〜2歳児クラスの「実質的な空きなし」が多くの親を悩ませている。
  • 野路や大路といった人気エリアでは、小規模園の活用や「3歳の壁」を見越した戦略が必須。
  • 車送迎が前提の矢橋エリア等でも、駐車場が広い人気園は激戦。土地選びは送迎ルートの確認から。
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草津の保活と土地選び:目次

草津市内の新しい住宅地と、その向こうに広がる市街地の風景。

出典: Kusatsu townscape 2021-07 ac (1) by Asturio Cantabrio, licensed under CC BY-SA 4.0.

数字の裏側にある椅子取りゲーム

草津市の保活を読み解く鍵は、公表される数字と、肌で感じる「入りにくさ」のギャップにあります。
滋賀県が公表している昨年(令和7年)4月1日時点の待機児童数データ ↗によれば、草津市の待機児童数は48人でした。

「48人なら、なんとかなるのでは」と思うかもしれません。

ですが、ここには国の定義によるカラクリがあります。特定の園のみを希望している場合や、求職活動を休止している場合などは「待機児童」としてカウントされません。
実際には、希望の園に入れなかった潜在的な「保留児童」が、この数字の背後に何倍も隠れている。
これが、草津の保活における最初の落とし穴です。

「空き」の記号が語る0歳児の壁

では、現場の状況はどうなっているのでしょうか。
草津市が公開している認可保育施設の令和8年1月時点の空き状況 ↗を見ると、その厳しさがより鮮明になります。

表に並ぶのは、0歳から2歳児クラスにおける無数の「×」印。
特に公立保育所や、立地が良い私立園の低年齢児クラスは、年度途中の入所が極めて困難な状況です。
例えば、兄弟加点がない第一子の入園となれば、フルタイム共働きであっても「駅近の人気園」に入れる保証はどこにもありません。
「点数は足りているはずなのに」という嘆きが聞こえてくるのは、この物理的なキャパシティの限界があるからです。

選択肢を広げる「小規模」というカード

ただ、状況は少しずつ変化しています。
大規模な園だけでなく、0〜2歳児を専門に預かる「小規模保育施設」が市内に増えてきました。
令和8年度の新規開園情報 ↗を見ても、「(仮称)おんとくキッズ保育園 草津園」や「(仮称)スクルドエンジェル保育園 くさつ園」など、新しい受け皿が用意されています。

これらは定員が少なく家庭的な雰囲気が魅力ですが、3歳以降は別の園へ移る「転園」の課題もセットで考える必要があります。
「3歳でまた保活をする」という未来を許容できるか。
その判断もまた、土地選びと同じくらい、暮らしの設計に関わってくるのです。

エリアで変わる保育の風景

草津市と一口に言っても、エリアによって「保活」の色合いは驚くほど異なります。
市の資料を詳しく読み解くと、町ごとの「需給の歪み」が見えてきました。
土地を探す段階で、そのエリアが持つ「保育の風景」を具体的に想像できているでしょうか。

南草津(野路・矢倉):利便性の代償と小規模園の活用

新快速停車駅として圧倒的な人気を誇る南草津エリア。
野路矢倉周辺には多くのマンションが立ち並びますが、ここは「3歳の壁」を最も意識すべきエリアと言えます。

令和8年1月の空き状況データ ↗を詳しく見ていくと、ある傾向が浮かび上がります。
それは、就学前まで通える人気園(TAMランド野路こども園など)の0〜2歳児クラスは早期に埋まる一方で、駅周辺に点在する小規模保育施設には、一次調整後でもわずかながら枠が残るケースがあるということです。
これは、多くの保護者が「保活を一度で終わらせたい」と願い、5歳まで通える園に希望が集中するためだと推察されます。

つまり、野路周辺で暮らす場合、「0〜2歳は小規模園という選択肢があるが、3歳以降の再保活という課題が残る」という構造になっています。
利便性を優先してこのエリアを選ぶなら、3歳時に提携園へ移るのか、あるいは幼稚園の預かり保育へシフトするのか、数年先の戦略まで描いておく必要があります。

南草津駅(野路エリア)周辺。小規模園の選択肢は豊富ですが、就学前までの一貫した保育環境を求めるなら激戦を覚悟する必要があります。

草津駅周辺(大路・草津):タワマンエリアの競争

草津駅周辺、特にタワーマンションが象徴的な東口の大路エリアや、新たな都市開発が進む西口の西大路町
ここは新旧の住民が混在し、保育ニーズが極めて高い地域です。

例えば、大路にある「たちばな大路こども園」などの人気園は、0歳児クラスから空きがほとんど出ません。
ここでは「徒歩通園」にこだわると選択肢が詰んでしまう可能性があります。
幸い、このエリアは多くの私立幼稚園やこども園の送迎バスルートになっています。
「自宅の目の前の園」ではなく、「バスが停まる場所」を拠点に考える。
草津町若竹町など少し範囲を広げつつ、園バスの停留所マップと睨めっこをするのが、このエリアでの賢い土地探しかもしれません。

草津駅周辺。徒歩圏内の園は高倍率ですが、園バスを活用することで選択肢は広がります。

郊外(矢橋・志津):車社会における「駐車場の戦い」

駅から離れた矢橋町や、東部の青地町(志津エリア)。
ここは「車での送迎」が前提となる地域ですが、郊外だからといって保育園に入りやすいわけではありません。

令和8年1月の空き状況 ↗を再度参照すると、矢橋町にある「矢橋ふたばこども園」などは、0歳・1歳児クラスともに空きがない状況です。
なぜなら、車通勤の共働き世帯にとって「駐車場が広くて送り迎えがしやすい園」は、駅近園と同じくらいに価値が高いからです。
「郊外なら空いているだろう」という安易な予測は禁物です。
笠縫東エリアなども含め、自分が通勤するルート上で「スムーズに車を停めてドロップオフできる園」がどこにあるのか。
土地の契約前に、朝の通勤時間帯の道路状況も含めてシミュレーションしておくことを強くお勧めします。

矢橋エリアなどは車送迎が基本。駐車場の使いやすさが毎日のストレスを左右します。

本陣の記憶と未来へのチェックイン

かつて草津宿本陣の大福帳には、土方歳三をはじめ、多くの旅人たちがその名を残しました。
彼らは皆、草鞋を脱ぎ、次の行程を案じながら、自分にとって最適な「出立の刻」を見定めていたのでしょう。

時代は移り、今の草津は近代的なビルと住宅が並ぶ街になりました。
けれど、ここが多くの人を惹きつけ、人生の新たな一歩を踏み出す場所であることに変わりはありません。
冒頭で触れた、少し息苦しいほどの保活の競争。それは現代の宿場町が背負う、賑わいの代償なのかもしれません。

しかし、かつての旅人が自身の健脚と相談したように、私たちもまた、世間の評判や数字だけではなく、家族の「歩幅」に合う場所を選ぶことができるはずです。
まずは園を決め、そのルートを確かめ、そこから家を探す。
そんな少し慎重な手順こそが、この活気ある街の喧騒の中で、家族が心から安らげる「現代の本陣」を見つけるための、確かな道標になる気がします。

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※保育・教育施設に関する注記:この記事で言及している待機児童数や施設の空き状況は、執筆時点(令和7年・8年当初)の公表データを基にしたものです。実際の入園可否は、保護者の点数やその年の申込状況によって大きく異なります。
土地のご契約や入園・入学の計画に際しては、必ず草津市の幼児課や各施設の最新情報をご確認の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。

更新履歴:2026年1月18日

最新の公表資料(滋賀県待機児童数、草津市認可保育施設空き状況等)に基づき、待機児童の実態および新規開園情報を加筆・修正しました。

参照:草津市 認可保育施設の空き状況滋賀県 保育所等入所待機児童数についてこども家庭庁 保育所等関連状況取りまとめ令和8年度園児募集 幼稚園・認定こども園(教育認定)令和8年度開園小規模保育施設