湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

10年後の隣地の姿を予測する:守山の都市計画から読む「成熟する街」の未来

草津駅周辺で空を見上げると、タワーマンションが稜線を切り取るように林立しています。その活気は、滋賀県が持つ成長のエネルギーそのものでしょう。

一方で、電車でわずか数分。守山駅に降り立つと、空の広さが少し違うことに気づきます。
駅前には整然としたロータリーがあり、そこから伸びる通りは緑に彩られていますが、威圧感のある高層建築は控えめです。

なぜ、同じように人気のエリアでありながら、守山にはタワーマンションが林立しないのでしょうか。
土地がないからでしょうか。それとも、需要がないからでしょうか。

その理由は、この街が明確な意思を持って「別の道」を選んだことにあります。

都市計画図という、街の行く末を描いた設計図を広げてみると、そこには「拡大」を続ける隣町とは対照的な、「成熟」を選んだ街の戦略が浮かび上がってきます。
10年後、あなたの家の隣に何が建つのか。
その風景を守っているのは、偶然ではなく、緻密に計算された「法とルール」なのです。

この記事のポイント
  • 守山が選んだのは「拡大」ではなく「成熟」。野洲川扇状地の平坦性を活かした「ウォーカブル」な都市構造が資産価値を支える。
  • 駅東口の再開発と村田製作所の拠点は、単なる企業誘致を超え、街のブランドを「住む場所」から「創造する場所」へと引き上げる。
  • 「高さ」や「派手さ」を抑制する地区計画は、人口減少社会において最も堅実な資産防衛策として機能する。
SEQ. PLAN // MORIYAMA_1.0

守山駅西口の整然としたロータリーと街並み

出典: Moriyama stn Shiga by Bakkai , licensed under CC BY-SA 3.0 .

「拡大」しないという決断:理論と風土が導く守山の将来像

都市の発展には、二つの方向性があります。
一つは、外へ外へと広がり、上へ上へと伸びていく「拡大・成長」のモデル。もう一つは、今の範囲を保ちながら、その質を高めていく「凝縮・成熟」のモデルです。

守山市が選んだのは、明らかに後者です。
守山市都市計画マスタープラン ↗を読み解くと、「コンパクト・プラス・ネットワーク」という言葉が、ただのスローガン以上の重みを持って運用されていることが分かります。

都市計画学の研究分野においては、コンパクトシティはただ建物を密集させることではなく、持続可能な都市経営のための処方箋として議論されてきました。
論文「コンパクトシティの概念と都市モデル」 ↗「人口減少社会とコンパクトなまちづくり」 ↗で指摘されているように、無秩序に拡散した都市はインフラ維持コストの増大や環境負荷を招きます。

守山市の場合、野洲川が形成した扇状地という平坦な地形が、このコンパクト化を有利に進める土台となっています。
坂道がないため、自転車や徒歩での移動が容易であり、無理なく生活圏を集約できるのです。

1987年の守山市中心部の航空写真。平坦な地形が確認できる。

出典: Moriyama city center area Aerial photograph.1987  by 国土交通省, Copyright © National Land Image Information (Color Aerial Photographs), Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism

具体的には、「居住誘導区域」という線を厳格に引き、そこから外側への無秩序な開発(スプロール現象)を強く抑制しています。
これは、人口減少社会において行政コスト(道路や水道の維持費)が膨らむのを防ぐための、極めて現実的な防衛策です。

もし守山が草津と同じように容積率を緩和し、タワーマンションを無制限に許可していたらどうなっていたでしょうか。
一時的には人口が爆発的に増えるかもしれませんが、将来的にインフラの維持が困難になり、街全体の質が低下するリスクを背負うことになります。

「派手な開発をしない」という決断は、今住んでいる人々の資産価値を、30年先まで守り抜くための水面下の戦略と言えるかもしれません。

都市の骨格をコンパクトに保ちつつ、その質を高める「ウォーカブル(歩きたくなる)」という戦略。
これが守山の不動産価値にどのような影響を与えるのか、もう少し詳しく掘り下げてみます。

ウォーカブルが資産価値を変える:「プレイス機能」という新しい物差し

「歩きたくなる街(ウォーカブルシティ)」という言葉を、最近よく耳にするようになりました。
守山市もこれを推進していますが、これは単に「健康に良い」というレベルの話ではありません。不動産の価値を持続させるための、経済的な戦略でもあります。

ここで興味深い研究があります。
論文「地方都市中心市街地における人中心のプレイス機能があるストリートの抽出による道路ネットワークの特性」 ↗では、道路をただ通過交通のための空間(Link)としてだけでなく、滞留や交流が生まれる場所(Place)として捉え直す視点が提示されています。

この論文では下田市を事例に分析されていますが、守山市の中心市街地にも同様の視点を当てることができます。
例えば、隈研吾氏設計の市立図書館前から続く通りや、リノベーションが進む旧中山道沿い。これらは、ただ目的地へ移動するための道(Link)ではなく、人々が立ち止まり、会話を楽しむ場所(Place)としての機能を帯び始めています。

再開発が進む守山駅東口エリアの風景

出典: Moriyama station east 2023 by 運動会プロテインパワー , licensed under CC BY-SA 4.0 .

プレイス機能が高いストリートは、周辺の商業活動を活性化させ、結果としてエリア全体の地価やブランド価値を押し上げます。
守山駅周辺の再開発において、広場やペデストリアンデッキの整備が重視されているのは、まさにこの「プレイス機能」を高め、街の魅力を「通過する街」から「滞在する街」へと転換させるための仕掛けなのです。

そして今、この「滞在する街」への転換を決定づける巨大なプロジェクトが進行しています。守山駅東口の再開発です。

東口再開発のインパクト:企業城下町としての新たな顔

守山の将来像において、最も大きな変化の震源地となるのが、守山駅東口の再開発です。
ここに、村田製作所の新たな研究開発拠点「守山イノベーションセンター」が誕生することは、ただ工場を誘致する以上の意味を持っています。

守山イノベーションセンターの建設現場

出典: 村田製作所守山イノベーションセンター(1/2) 2026年1月8日  by 陽貴064 , Public Domain (CC0 1.0 ).

数千人規模の高度な技術者や研究者が、この街に通い、あるいは住まうことになる。それは、街の人口動態や消費の質に、目立ちませんが確実な変化をもたらします。
高い教育水準や文化的なニーズを持つ層の流入は、街のサービスや飲食店の質を引き上げ、結果として「文教都市」としてのブランドをより強固なものにするでしょう。

守山駅周辺総合開発基本計画 ↗によると、この再開発エリアは企業のためだけの場所ではありません。広場や交流施設が整備され、市民にも開かれた空間となることが計画されています。

働く場所と住む場所、そして憩う場所が高度に融合したこのエリアは、守山の新しい顔として、街全体の資産価値を牽引するエンジンになるはずです。

では、こうした大規模な開発が進む一方で、私たちが住む住宅地の環境はどのように守られていくのでしょうか。
次に、具体的なエリアごとの変化を、都市計画のルールから読み解いてみましょう。

用途地域と地区計画から読む10年後:エリア別・変化の予報

「成熟」の戦略は、私たちが住むエリアにどのような風景をもたらすのでしょうか。市役所に備え付けられた用途地域図は、10年後の街の姿を映し出す予言の書です。

色分けされた地図から、主要な3つのエリアの未来を読み解いてみます。

駅周辺(商業・再開発):高度利用と抑制のバランス

駅周辺の「商業地域」は、通常であれば最も開発圧力が高い場所です。
しかし守山の場合、無秩序な高層化を招かないよう、高度地区指定などによるコントロールが効いています。

都市開発においては、「ジェントリフィケーション(地域の高級化による住民の入れ替わり)」という現象がしばしば議論になります。
論文「日本における地方都市型ジェントリフィケーションに関する試論」 ↗では、金沢市の事例を通じて、再投資と「目的地化」が地域の質を変容させる過程が分析されています。

守山駅周辺でも、再開発による地価上昇は避けられませんが、守山の場合は「歴史的文脈の継承」と「住環境の質」を重視する都市計画が機能しているため、急激な住民の入れ替わりではなく、既存コミュニティと新しい機能の融合(緩やかな成熟)を目指しているように見えます。
10年後、駅前はより便利になりますが、空を圧迫するような威圧感はなく、歩いて心地よいスケール感が保たれているでしょう。

守山駅周辺。商業機能が集積しつつも、過度な高層化が抑制され、ヒューマンスケールの街並みが維持されている様子。

住宅地(立入・吉身など):地区計画が守る「変わらない」価値

駅から少し離れた立入(たていり)や吉身(よしみ)といった住宅地。ここの地図には、用途地域の上にさらに細かい網掛けがなされています。「地区計画」です。

「壁面は道路から1メートル以上後退すること」「垣根や柵は生垣を推奨する」「高さは10メートル以下」。
これらは、個人の家づくりにとっては厳しい制約です。しかし、このルールがあるからこそ、隣に日当たりを遮るアパートが突然建つことはなく、道路際の緑の連続性が保たれます。

法的な強制力を持って「環境を変えない」こと。それは、住まいの資産価値における「予測可能性」を担保することと同義です。
10年後も、このエリアの落ち着きと品格は、法律によって物理的に守られ続けているでしょう。

守山市立入が丘周辺。地区計画によって整然とした街並みが維持され、道路幅や緑地が確保されている様子が分かります。

調整区域・郊外(中洲・速野):開発抑制と自然との共生

さらに郊外へ目を向けると、市街化調整区域が広がります。
ここは原則として新たな宅地開発が抑制されるエリアです。一見すると不便に思えますが、守山市はここを「見捨てられた場所」ではなく「自然と共生する場所」として位置づけています。

野洲川や琵琶湖に近いこのエリアでは、農地の保全やホタルの住む水環境の維持が優先されます。
都市的な開発が入らないということは、豊かな田園風景や自然環境が将来にわたって残されるということでもあります。利便性よりも、自然の中での穏やかな暮らしを求める層にとっては、この「変わらなさ」こそが最大の価値となるかもしれません。

ただし、ハザードマップ上でのリスク確認は不可欠です。
かつての河道(旧河道)や低地における浸水リスクについては、都市計画の線引きとは別の視点で、冷静に見極める必要があります。

中洲小学校周辺。豊かな自然に囲まれた環境ですが、旧河道などの地形的特徴には注意が必要です。

シビックプライドと「管理された街」の価値

守山の街を歩いていて感じる「きれいだな」という印象。それは、電線が地中化されていたり、歩道が広かったりといった、物理的な整備によるものだけではありません。

シビックプライド(市民の誇り)。
少し抽象的な言葉ですが、これが守山の不動産価値を支える隠れた柱です。
住民が自分の街に誇りを持ち、庭の手入れをし、道路を掃除する。景観計画というルールを守ることを、窮屈な義務ではなく、街の品格を保つための作法として受け入れている。

この「人の手が入っている感覚」こそが、街の雰囲気を決定づけます。
不動産市場において、管理の行き届いたマンションが高値で取引されるように、住民によって丁寧に管理された街は、経年によって劣化するのではなく、風格を増していきます。

「拡大」を選ばず「成熟」を選んだ守山の都市計画。
それは、派手な値上がりを期待する投機的なマネーではなく、長く住み続けたいと願う人々の「実需」を呼び込み続けます。
10年後、この街の風景がどうなっているか。その答えは、都市計画図の中に引かれた線と、そこに住む人々の意識の中に、すでに描かれているのかもしれません。

※都市計画情報に関する注記:この記事で解説している用途地域や都市計画に関する内容、および将来予測は、執筆時点の公表資料(守山市都市計画マスタープラン、立地適正化計画等)や一般的な都市発展の傾向を基にしたものです。市の政策変更や社会情勢の変化により、将来的に変更される可能性があります。
土地のご契約や建築計画にあたっては、必ず守山市の都市計画課など、行政の担当窓口で最新の公式情報をご確認の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。

(参照: 守山市都市計画マスタープラン 守山市都市再生整備計画 滋賀県公式(地価調査) 守山駅周辺総合開発基本計画 自治会別・地区別人口 守山市の人口の状況 コンパクトシティの概念と都市モデル 人口減少社会とコンパクトなまちづくり 地方都市中心市街地における人中心のプレイス機能があるストリートの抽出による道路ネットワークの特性 日本における地方都市型ジェントリフィケーションに関する試論