湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

ハザードマップの色が語る物語:守山の野洲川治水史から災害リスクを読む

守山市の北部を流れる野洲川の河川敷には、野球場やテニスコートなどの運動施設が整備され、週末には広々とした空の下でスポーツや散策を楽しむ市民の姿が見られます。
「住みよさランキング」で県内上位常連のこの街の、平和な日常を象徴するような場所です。

しかし、この穏やかな川はかつて「近江太郎」と呼ばれ、ひとたび暴れれば流域の村々を飲み込む、荒ぶる川であった歴史を持っています。

守山市のハザードマップ ↗を広げてみると、鮮やかな色が塗られたエリアが目に飛び込んできます。そこには、危険予測とともに、この街が水と闘い、克服し、今の繁栄を築いてきた「治水の歴史」そのものが刻まれているのです。
整備された美しい街並みの足元に眠る、土地の記憶。それを読み解くことが、守山での土地探しをより深く、納得感のあるものにしてくれるのかもしれません。

この記事のポイント
  • 守山市の災害リスクは、草津の人工地形とは異なり、「野洲川」という大河川と「扇状地」という自然地形に起因する。
  • 「洪水・内水リスク」が高い平野部と、改修事業で生まれた「旧河道」の地盤リスクを理解することが重要。
  • 治水の歴史を知り、ハザードマップを「お守り」として活用することで、賢い土地選びが可能になる。

穏やかな川の流れと広い空。かつての暴れ川の面影はなく、市民の憩いの場となっている。

出典: Yasu River park by Douggers, licensed under CC BY 3.0

守山を形作った野洲川という巨大な力

守山市の地形は、野洲川が山地から琵琶湖へ流れ出る際に土砂を堆積させて作った「扇状地」にあたります。
土地が平坦で肥沃なのは、過去の度重なる氾濫がもたらした恵みだったという側面もあります。

天井川の記憶と昭和の大改修

かつての野洲川は、下流で「南流」と「北流」の二手に分かれ、川底が周囲の地面よりも高い「天井川」として流れていました。
大雨のたびに堤防が決壊し、甚大な被害をもたらしてきたこの川に対し、昭和46年、国家プロジェクトとして「野洲川放水路事業」が始まります。

これは、二つの川の間に新しい水路を通して一本化するという、地図を書き換えるほどの大工事でした。
国土交通省 琵琶湖河川事務所の資料 ↗などを見ると、現在のまっすぐで広い野洲川が、いかに巨大な人工の創造物であるかが分かります。この治水事業の成功こそが、現在の守山市の発展を支える、見えない礎になっているようです。

洪水ハザードマップを読み解く 破堤時のシナリオ

野洲川は現在、強固な堤防で守られていますが、ハザードマップからは「万が一、想定最大規模の降雨で堤防が決壊した場合」のシナリオが読み取れます。
守山において注視すべきは、巨大なエネルギーを持つ大河川の「外水氾濫」というリスクの本質です。

広域浸水と家屋倒壊の危険性

改めてハザードマップ ↗を確認すると、野洲川の流域にあたる幸津川町小島町服部町といった川沿いのエリアの一部に、「家屋倒壊等氾濫想定区域」が確認できます。
これは、堤防が決壊した際の激しい水流で、家屋が流出したり倒壊したりする危険がある場所です。この区域内の土地を検討する場合は、避難計画をより慎重に立てることが求められます。

また、守山市は全体的に平坦な地形であるため、一度氾濫が起きると水が広範囲に広がりやすく、長時間引かない懸念も残ります。
特に中洲学区の広い範囲や、吉身の一部など、標高が比較的低いエリアでは、深い浸水が想定されています。
「どこまで水が来るか」だけでなく、「水が引くまで何日かかるか」という浸水継続時間も、生活再建を考える上で重要な目安の一つになるはずです。

野洲川放水路の分岐点周辺。かつて南流と北流に分かれていた川を一本化し、守山の安全を守っている治水の要衝です。

地図から消えた川(旧河道)という地盤リスク

放水路事業によって廃川となった「南流」と「北流」の跡地は、現在どうなっているのでしょうか。
その多くは埋め立てられ、道路や公園、そして一部は宅地として利用されています。

地名や古地図から読み解く

三宅町にある守山市民運動公園や、服部町のビッグレイク周辺など、地図上で不自然に細長く湾曲して続く緑地や公共施設のライン。これが、かつての川の痕跡です。
こうした「旧河道」の上や周辺にある土地は、一般的に砂質の土壌が多く、地盤が軟弱であったり、地震時に液状化しやすかったりするリスクがあると言われています。

現在の地図からは消えてしまった川ですが、土地の履歴書にはその記憶が刻まれているのです。
検討している土地が旧河道に該当するかどうかは、国土地理院の地図 ↗(治水地形分類図)や古地図で確認可能です。もし該当する場合は、契約前に地盤調査を徹底し、必要に応じた地盤改良工事の費用を見込んでおくことを検討する価値があります。

守山市民運動公園(三宅町)。かつて野洲川が流れていた場所を活用しており、地盤の特性を知る手がかりとなるエリアです。

都市型水害への備え 内水氾濫

野洲川の氾濫リスクは治水事業で大幅に低減されました。一方で都市化に伴う新たな課題も浮上しています。
それが、大雨の際に排水溝などから水が溢れる「内水氾濫」です。

守山駅周辺モリーブ(播磨田町)周辺など、商業施設や住宅が密集し、地面がアスファルトで覆われたエリアでは、雨水が地面に浸透しにくい傾向にあります。
短時間に猛烈な雨が降った場合、排水ポンプの能力を超えてしまい、道路が冠水したり、低い土地にある家屋が浸水したりするリスクもゼロではありません。

ハザードマップの内水浸水想定区域を確認し、特に周囲より低い土地を選ぶ際には、基礎高を上げるなどの対策を検討する意義は大きそうです。

守山市播磨田町の商業施設「モリーブ」周辺。商業施設が集まり都市化が進んでいるため、内水氾濫のリスクを確認すべき代表的なエリアです。

リスクを織り込んだ暮らしの構え

野洲川の河川敷にある公園で、子供たちが泥だらけになって遊んでいる姿を見かけました。
かつて人々を恐れさせた暴れ川は、今では暮らしに潤いを与える存在として、静かに佇んでいるようです。

ハザードマップの色は、警告であると同時に、この土地が辿ってきた物語の記録とも読めます。
外水氾濫の懸念があるなら、水災補償の手厚い火災保険を選ぶ。旧河道に近いなら、地盤改良費を予算に組み込む。

治水の歴史に敬意を払いながら、自らの手で安全の輪郭を描き足していく。
その作法こそが、この美しい水辺の街で暮らすための、確かな礎になるような気がします。

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※ハザードマップ情報に関する注記:この記事で解説している内容は、執筆時点の公表資料に基づく一般的な傾向や可能性を述べたものです。ハザードマップや警戒区域の指定、建築に関する規制は、最新の知見に基づき更新されることがあります。
土地のご契約や建築計画に際しては、必ず守山市の公式サイトで最新のハザードマップをご確認いただくとともに、防災危機管理課などの担当窓口や、建築士・地盤調査会社といった専門家にご相談の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。

(参照:守山市洪水ハザードマップ国土地理院 地理院地図(治水地形分類図)国土交通省近畿地方整備局 琵琶湖河川事務所(野洲川) 等)