湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

「守り」の補助金:大津市の制度から読み解く、街が目指す未来像と賢い活用戦略

国のZEH補助金や税制優遇については、耳にする機会も多いはずです。
では、私たちがこれから暮らす大津市や滋賀県が、この土地のためにどんな仕組みを用意しているか、調べたことはあるでしょうか。

人口増加を背景に「攻め」の制度が目立つ草津市に対し、大津市のラインナップには、少し違った色が混じっています。
それは、この街が長く向き合ってきた「地形」や「老い」といった課題に対する、静かで強固な意志です。

お得な制度のリストとしてだけでなく、街からのメッセージとして補助金を読み解く。
その視点があれば、家づくりはもっと戦略的になります。

この記事のポイント
  • 大津エリアの補助金は、成長促進だけでなく、耐震や景観維持といった社会課題に対応する「守り」の性格も併せ持つ。
  • 「安全確保」「省エネ」「環境・文化」の3つの意図から制度を読み解くことで、戦略的な活用が可能になる。
  • 新築かリノベーションか、自身の状況に合わせた「県と市の補助金の組み合わせ」を考えることが重要。

青空の下に建つ大津市役所の庁舎。市の政策や補助金に関する情報が集まる中心地。

出典: Otsu City Hall 20190919 by KishujiRapid, licensed under CC BY-SA 4.0.

大津の補助金を読み解く3つの視点

このエリアで使える補助金制度には、単なる支援策の羅列ではなく、街が抱える課題に対し市民と共にどう立ち向かうかという明確な意図があります。
大きく3つの方向性から整理してみます。

歴史と地形に応える「守り」

まず注目すべきは、歴史的・地理的な課題に直接応える「守り」の制度です。
これらは、ハザードマップで指摘される土砂災害リスクや、旧市街地の空き家問題といった難題に対する、大津市の回答と言えます。

大津市木造住宅耐震改修等事業補助金は、昭和56年5月31日以前に着工された旧耐震基準の木造住宅を対象としています。
これは単に古い家を直すための費用補助ではありません。大津市建築指導課の助成要綱 ↗を読み込むと、耐震診断で評点が低い(倒壊の可能性がある)住宅に対し、評点を0.7以上、あるいは1.0以上に引き上げる工事を求めていることが分かります。
つまり、大地震の際に「倒壊して避難路を塞がない」状態を作るという、地域全体の安全確保がこの制度の核心です。

また、ブロック塀等の撤去等促進事業も、この文脈で理解すべき制度です。
対象となるのは、指定避難所へ向かう「避難路」沿いにある、高さ60cmを超えるブロック塀などです。
坂道の多い大津では、通学路や生活道路に面した古い擁壁や塀がリスク要因となり得ます。
市が撤去や改修を支援するのは、個人の敷地管理をサポートすることで、災害時の避難ルートを確実に確保したいという狙いがあるからでしょう。

大津市役所。各種補助金の申請窓口であり、市の政策意図を知るための情報が集まる場所です。

未来の家計を支える「攻め」

安全という土台を固めた上で検討したいのが、未来の家計負担を軽減する「攻め」の制度です。
国のZEH補助金といった大規模な制度に加えて、滋賀県が淡海環境保全財団を通じて実施するスマート・ライフスタイル普及促進事業補助金があります。

この制度は、太陽光発電システムや蓄電池、エネファームなどを設置する際に費用の一部を補助 ↗するものです。
令和7年度からは「重点対策加速化事業」として、より高い省エネ性能を持つ設備への支援が手厚くなっています。
大津の地理条件を考えれば、これらの設備は光熱費削減だけでなく「災害時の停電対策」という防災面でも極めて重要です。
比叡山麓や湖西エリアなど、土砂災害リスク等で孤立が懸念される場所で家を建てる場合、エネルギーを自給自足できる環境は、生活を守る命綱になります。

街の意志を支える「共感」

耐震改修で「家族の安全」を、省エネ設備で「家計の防衛」を固める。
その視線を、もう少しだけ外側、私たちが暮らす「街並み」へと広げてみると、大津ならではのユニークな制度が見えてきます。

例えば、比叡山の門前町として栄えた坂本エリアには、門前町坂本まちなみ整備事業補助金があります。
大津市の交付要綱 ↗によれば、通りから見える外観を、勾配屋根や和瓦、格子といった伝統的な意匠に整える場合、その経費の一部が助成されます。
これは、個人の家が街の景観を構成する「公共財」でもあることを認める制度です。

また、滋賀県産の木材「びわ湖材」の使用を促すびわ湖材利用促進事業 ↗(または「木の香る淡海の家推進事業」)や、琵琶湖の水質保全につながる雨水貯留浸透施設設置助成金なども利用可能です。
地元の木を使い、雨水を大地に還す。
こうした選択の一つひとつが、琵琶湖という巨大な水瓶を持つこの地域の環境保全に直結します。

補助金を編む二つの筋立て

これらの制度を、実際の家づくりでどう組み合わせればよいのでしょうか。
状況の異なる2つのケースで、制度の活かし方を整理します。

新興住宅地で描く未来

このケースでの基本戦略は、「攻め」の補助金をフル活用し、エネルギーコストを徹底的に削減することです。
まず国のZEH補助金や、県のしがZEH新築支援事業費補助金で建物の基本性能を高め、さらにスマート・ライフスタイル普及促進事業補助金で太陽光パネルと蓄電池を搭載する。
これが、未来の家計を見据えた王道の組み合わせです。
ここに、大津ならではの「びわ湖材」を構造材や内装に採用すれば、環境性能と地域貢献を両立させた家づくりが実現します。

旧市街地で紡ぐ歴史

歴史あるエリアでのリノベーションでは、戦略の順番が変わります。
最優先すべきは、「守り」の補助金を活用し、建物の安全性の土台を固めること。
まず市の「木造住宅耐震改修等事業補助金」で構造の安全を確保する。
その上で、もし歴史的風致維持向上計画区域内であれば修景助成を活用して街並みに貢献しつつ、断熱改修などに「攻め」の補助金を組み合わせる。
この手順を踏むことで、歴史的な街並みの風情と、現代の快適性・安全性を両立できます。

先人の石垣に重ねるように

比叡山の麓、坂本の街を歩くと、精緻に積まれた「穴太衆積み」の石垣があちこちに残っています。
かつての職人や住人たちは、急峻な地形と暴れ川を制御し、安全な居住空間を確保するために、膨大な労力を投じてこのインフラを築きました。
大津という街は、そうした先人たちの「災害から暮らしを守る」という執念の上に成り立っています。

現代の私たちが申請書に判を押す「耐震改修」や「がけ地対策」の補助金もまた、形を変えた現代の石垣です。
制度を利用して家を強固にすることは、経済的メリットの享受であると同時に、この街が連綿と続けてきた「守り」の歴史を、次の世代へと繋ぐ具体的な実務でもあります。

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※補助金情報に関する注記:この記事で紹介している補助金制度は、2025年度時点の情報を基にした一般的な概要です。記載の補助金額はあくまで一例や目安であり、保証されるものではありません。各制度には、予算の上限、申請期間、詳細な要件(対象者の所得、住宅の性能、工事内容など)が定められています。また、制度内容は年度によって変更・終了する場合があります。
補助金の活用を検討される際は、必ず事前に大津市や滋賀県、各実施団体の公式サイトをご確認いただくか、各担当窓口(住宅政策課、建築指導課、淡海環境保全財団など)に直接お問い合わせの上、ご自身の責任において申請・計画を進めてください。

(参照:大津市公式サイト滋賀県公式サイト大津市建築指導課 助成要綱等淡海環境保全財団 スマート・ライフスタイル普及促進事業門前町坂本まちなみ整備事業補助金滋賀県 びわ湖材利用促進事業、等)