湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

数字の裏側にある現実:彦根の「保活」から逆算する、後悔しない土地選び

彦根市の待機児童数は、県の公表資料などを見ると、近年は比較的落ち着いているように見えます。しかし、その数字の穏やかさとは裏腹に、いざ我が子の預け先を探し始めると「希望する園には入れそうにない」「そもそも選択肢が限られている」といった、別の種類の壁に直面することがあります。

草津のような熾烈な椅子取りゲームとも、近江八幡の文化的な空気とも違う、彦根独自の「保活」。この街では、藩校以来の教育への関心の高さが、ある種の「保育の気風」を形作っています。
その空気にどう関わるかが、土地選びの方向性さえも左右することになるようです。

この記事のポイント
  • 彦根の保活は、草津のような効率化とは異なり、「武家文化の伝統」と「現代的な利便性」という二つの保育観の選択が中心となる。
  • 「城下町の小規模園」と「南彦根の大規模園」という二極構造が、選べる園の質と量を規定している。
  • 「まず園を決め、そこから逆算して土地を探す」という手順が、後悔を避けるための有効な手立てとなる。

静かな水面をたたえる彦根城のお堀。歴史的な景観が日常の中に溶け込んでいる。

出典: Hikone Castle in 2013-8-14 No,18 by Mti, licensed under CC BY-SA 3.0.

城下町の気風と、新市街の利便性

彦根で保育園や幼稚園を探し始めると、空きがあるかどうかを確認するだけでは不十分であることに気づかされます。「どのような環境で子どもを育てたいか」という、家族の根幹に関わる方針を定める必要があるからです。
選べる園の性格は、大きく二つのエリアによって方向づけられています。

城下町エリアが育む地域密着型の保育

城東・城南学区といった彦根駅周辺のエリアには、古くから続く私立幼稚園や、地域に根差した小規模な保育園が点在しています。このあたりは、彦根城築城以来、武家屋敷が集まり、藩校「稽古館」が置かれるなど、教育への関心が高い土壌を持つ場所。その系譜を受け継ぐように、独自の教育理念を持つ歴史ある園が今も地域に根付いています。

園庭は広くない場合もありますが、お堀端や公園を園庭の延長のように活用し、街全体を学びの場としている光景を見かけることもあります。先生と園児の距離が近く、一人ひとりの個性に合わせたきめ細かな保育が期待できる。
そんな安心感が、このエリアの魅力のようです。

その一方で、施設の歴史が長い分、設備が最新ではなかったり、共働き世帯が求める長時間の延長保育に十分に対応しきれていなかったりするケースもあります。この点は、事前の確認が不可欠です。

彦根駅を中心とする城下町エリア。歴史ある小規模園が点在しています。

南彦根エリアが提供する現代的な保育サービス

対照的に、南彦根エリアには、近年設立された大規模な認定こども園が多く見られます。
戦後、田園地帯だったこの場所は、工場の進出と人口増加に伴い、新しい住民のニーズに応える形で発展してきました。その成り立ちを反映し、保育施設も「伝統の継承」というよりは、「質の高い保育サービスの提供」に重きを置く傾向があります。

新しい施設は設備も充実しており、英語教育や運動プログラムといった多様なカリキュラムを提供する園も少なくありません。
長時間の預かり保育に標準で対応している場合が多く、冬の厳しい「伊吹おろし」の中、車でスムーズに送迎できる広い駐車場が完備されているのも、共働き世帯にとっては見逃せない利点です。

しかし、その利便性と選べる項目の多さから人気が集中し、入園の競争倍率が高くなる傾向にあります。
希望すれば必ず入れるわけではない、という現実は認識しておく必要があります。

彦根駅(左)と南彦根駅(右)。この二つの核のどちらに生活の軸足を置くかで、保育園選びの戦略も変わってきます。

点数だけでは測れない入園の実情

認可保育施設への入園は「利用調整(点数)」で決まります。彦根市の基準では、夫婦ともにフルタイム勤務であれば高い点数にはなりますが、南彦根の人気園などでは、同じ点数の希望者が定員を上回ることも珍しくありません。
その場合、「きょうだいが既に在園している」といった加点が、事実上の決定打となるケースも多いと聞きます。

市役所の窓口で順番を待っているとき、若いご夫婦が入園案内のパンフレットを食い入るように見つめている姿を見かけました。あの真剣な表情こそが、数字だけでは見えてこない、彦根の保活の切実さを物語っているのでしょう。

特に、年度の途中で復職などを考えている場合、0歳児や1歳児クラスの定員は非常に限られています。これが最初の大きな関門となることは、覚悟しておいた方がよさそうです。

「カロム」が繋ぐ世代間の記憶

彦根の子どもたちの間で、古くから親しまれている「カロム」というボードゲームをご存知でしょうか。おはじきとビリヤードを組み合わせたようなこの遊びは、彦根では一家に一台あると言われるほど普及しており、保育園や学童保育の場でも日常的に遊ばれています。

他県から移り住んだ親にとって、最初は見慣れないこのゲームも、子どもが園で覚えて帰り、家で一緒に遊ぶようになると、不思議と愛着が湧いてくるものです。園選びや住む場所選びを通じて、私たちは単に施設を選んでいるだけでなく、こうした地域固有の遊びや文化の輪の中に、どう入っていくかを選んでいるとも言えます。

最新の遊具で遊ぶのも良いでしょう。ですが、100年以上続くカロムの盤面を囲み、地域の子どもたちと同じルールで熱中する。
そんな時間を我が子に贈ることもまた、この街で子育てをする醍醐味の一つなのかもしれません。

あわせて読みたい記事

※保育・教育施設に関する注記:この記事で言及している待機児童や施設の状況は、執筆時点の公表データや一般的な傾向を基にしたものです。実際の状況は年度や個別の施設によって大きく異なります。
土地のご契約や入園の計画に際しては、必ず彦根市の担当窓口(すくすく子育て課、学校教育課など)で最新の公式情報をご確認の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。

(参照:彦根市公式サイト、各教育機関ウェブサイト 等)