湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

なぜ守山の平屋は「合理的」なのか?草津では叶わない「土地の広さ」を活かす設計術

草津駅前のペデストリアンデッキから空を見上げると、稜線を切り取るようにタワーマンションが林立しています。その垂直方向への圧倒的なエネルギーは、滋賀県が持つ成長の証そのものでしょう。

一方で、そこから電車でわずか数分。守山駅に降り立ち、少し歩くと、視界がふっと水平方向に開けるのを感じます。
整然とした街路樹、ゆとりある敷地に建つ低層の住宅群。同じように人気のエリアでありながら、ここには「高さ」を競うのとは違う、別の豊かさの基準があるように見えます。

この街で、あえて「平屋」を建てること。

多くの人が「平屋は贅沢だ」と言います。確かに、同じ延床面積を得るために2倍近い敷地を必要とする平屋は、土地という資源に対して非常に「わがまま」な建築形式です。
しかし、そのわがままを、単なる贅沢や懐古趣味としてではなく、極めて合理的な選択として受け止めてくれる街が、滋賀県内に存在するとしたらどうでしょうか。

それが、守山市です。
なぜ、草津では高嶺の花である平屋が、守山では現実的な解となるのか。それは偶然土地が空いているからではなく、この街が定めた「法(都市計画)」と、足元に広がる「風土(地形)」が、平屋という建築形式と奇跡的に噛み合っているからに他なりません。

この記事のポイント
  • 守山では「地区計画」という法規制が、平屋に必要な「広い土地」を市場に守り続けている。
  • 弱点である水害リスクは、逃げることより「1階を浸水させない」高基礎・盛り土の設計で克服する。
  • エリア選びは「便利さ」ではなく、間口や視線といった「平屋が破綻しない敷地条件」から逆算する。
SEQ. INDEX // REVISION_0.6
守山の平屋・合理的設計論:目次

守山市立図書館と周辺の落ち着いた街並み

出典: Moriyama City Library 2025 by Fotointheworld, licensed under CC BY 4.0.

平屋を建てようとしたとき、最大の敵となるのは何でしょうか。
それは予算以前に、「土地が細切れにされてしまうこと」、つまりミニ開発です。

経済合理性だけで動く市場では、60坪の土地があれば、それを30坪2つに割って2軒の家を建てる方が利益が出ます。草津市などの地価高騰エリアで起きているのは、まさにこの現象です。その結果、市場に出回るのは「3階建てを建てるしかない細長い土地」ばかりになり、平屋は物理的に排除されていきます。

しかし、守山市の事情は少し異なります。
守山市都市計画マスタープラン ↗を読み解くと、市内には「中低層住宅地の形成」や「ゆとりある住環境の維持」という方針が強く示されています。

そして、それが単なるスローガンで終わっていない証拠が、「地区計画」の存在です。
立入町や吉身、播磨田町といった多くのエリアで、守山市の地区計画 ↗として「敷地面積の最低限度(例えば165㎡など)」が厳格に定められています。

「これ以上、土地を小さく割ってはいけません」というこの法的な縛りが、開発業者による土地の細分化を防ぐ防波堤となっています。
結果として、守山では平屋を建てるのに十分な60坪クラスの整形地が、特別な「例外」ではなく、ごく標準的な選択肢として市場に残り続けているのです。

法が土地の広さを守っているからこそ、建築の自由度が守られる。この構造こそが、守山で平屋が現実的である最大の理由です。

平屋のコスト構造と、守山の“地価×敷地”の一致

「平屋は高い」という定説があります。
確かに建物単体で見れば、基礎と屋根の面積が2階建ての倍近くになるため、坪単価は割高になりがちです。

しかし、家づくりの総額は「土地+建物」で決まります。
ここで、守山と草津の地価差が効いてきます。滋賀県地価調査 ↗などのデータを見ると、エリアにもよりますが、草津駅周辺と守山の住宅地では、坪単価に20万円から30万円ほどの開きが見られることがあります。

仮に60坪の土地を取得する場合、この単価差は1,000万円以上の土地代の差となって現れます。
この浮いた1,000万円以上の予算を、平屋特有のコスト増(基礎や屋根の費用)に充てても、まだお釣りがくる計算になります。

さらに平屋には、2階建てにはない「減額要因」もあります。

  • 階段室が不要: 約1〜2坪分(数十万円相当)の床面積を削減できる。
  • 足場費用の圧縮: 2階部分の足場が不要なため、建築時だけでなく将来の塗り替えコストも安く済む。
  • 構造の単純化: 2階を支えるための過剰な柱や梁が不要になる。

こうしてトータルで計算すると、守山においては、平屋は贅沢品ではなく、資産配分の最適解(アービトラージ)として浮かび上がってきます。
高い土地代を払って小さな3階建てに住むか、土地代を抑えて広々とした平屋に住むか。守山は後者の選択を、経済的にも後押ししてくれる街なのです。

「接地性」という建築価値を、街スケールで享受する

平屋の最大の魅力は、建築用語でいう「接地性(Grounded)」にあります。
庭とリビングがフラットに繋がり、土の匂いや季節の移ろいを肌で感じられること。地に足の着いた暮らしの実感です。

建築計画学の分野では、こうした「地面との心理的な距離」が、人の活動や社会との接点にどう影響するかという議論が古くからなされています。例えば、住環境とコミュニティの関係を調査した『シルバーピアの住棟形態から見た団らん室の利用に関する研究』などの考察においても、生活の拠点となる階層が地面から離れるにつれて、外部空間への積極的な関わりが変化する傾向が示唆されています。

地面から離れることは、心理的にも街や社会から距離を置くことにつながりかねない。逆に言えば、地面に近い平屋での暮らしは、年齢を重ねても外に出やすく、社会との接点を保ちやすい「持続可能な住まい」であると言えます。

上空から見た野洲川と守山市。扇状地の平坦な地形がよくわかる。

出典: Japan, Shiga - Yasu river 2018 by USGS Landsat (NASA), Public Domain.

守山という街の面白さは、この接地性が家の中だけでなく、街全体へと拡張されている点にあります。
国土交通省 琵琶湖河川事務所 ↗の資料等でも確認できるように、守山市の大部分は野洲川が形成した扇状地の上にあり、驚くほど平坦です。

大津の山手エリアで平屋を建てても、一歩外に出れば急な坂道が待っています。しかし守山では、玄関を出てもフラットな道がどこまでも続いています。
自転車一台あれば、駅へも、図書館へも、スーパーへも、汗をかかずにアクセスできる。
「家だけが平屋」なのではなく、「街ごとワンフロア」のように暮らせる感覚。これこそが、守山で平屋に住むことの、数値化できない心地よさの正体かもしれません。

守山で平屋を建てるなら「1階を避難階にしない」設計を採る

平屋を検討する際、誰もが懸念するのが「水害」です。
2階がないため、万が一の浸水時に上へ逃げられない。「垂直避難ができない」という脆弱性は、確かに平屋の最大の弱点です。

野洲川の看板と周辺の風景

出典: River name sign of Yasu river in Sadugawa by 運動会プロテインパワー, licensed under CC BY-SA 4.0.

しかし、守山の水害リスクの特性を正しく理解すれば、建築的な解決策が見えてきます。
守山市洪水ハザードマップ ↗を確認すると、野洲川の氾濫だけでなく、市街地での内水氾濫(排水が追いつかず水が溢れる)のリスクがあるエリアが存在します。
山間部の急流とは異なり、広くて平坦な守山での水害は、じわじわと水位が上がり、水が滞留する「内水・滞水型」が中心です。

ここで重要なのは、「2階に逃げる」という発想からの転換です。
そもそも2階に逃げなければならない状況を作らないこと。つまり、最初から「1階を浸水させない」レベル設定で家を建てるという思想です。

守山だから成立する「高さ」の確保:

  • 高基礎(基礎を高くする): 通常40cm程度の基礎高を、60cm〜1m程度まで上げる。
  • 盛り土(GL設定): 敷地全体を道路よりも高く造成する。
  • ゾーニング: 室外機や給湯器、配電盤などの重要設備を、想定浸水深よりも高い位置(架台設置や壁面設置)に配置する。

大津のような傾斜地でこれを行おうとすると、擁壁工事や残土処分で莫大な費用がかかります。
しかし、守山のような平坦地であれば、基礎を高くするコストや土を入れるコストは比較的安価に、かつ正確に見積もることができます。
土地代と造成費が浮いた分を、この「高さ」を確保するための防災コストに回す。リスクを感情的に恐れるのではなく、設計と予算配分で物理的に解決する。それが、この街で平屋を建てるための賢い作法です。

守山で“平屋が破綻しない敷地条件”を逆算する

「駅に近いから」「便利だから」。そんな理由で土地を選んだ瞬間、平屋の計画は破綻します。
平屋には、平屋を成立させるための「敷地条件」があり、それを外すと生活が立ち行かなくなるからです。

エリアありきではなく、「建てたい平屋のタイプ」から、その計画が破綻しないための条件を逆算してみましょう。

条件A:中庭型平屋(コートハウス)

四方を壁で囲んだ中庭。プライベートな空を楽しめる憧れのスタイルですが、この形式は「上からの視線」が一点でもあると破綻します。
もし隣に3階建ての住宅が建ち、そのベランダから中庭が見下ろせるとしたらどうなるでしょうか。
開放的であるはずの中庭のカーテンは閉ざされ、採光のために開けたはずの天窓は、真夏の直射日光を室内に招き入れるだけの熱源となってしまいます。

立入・吉身・勝部エリア:駅に近いながらも、地区計画により低層の住環境が守られているエリアです。

この「見下ろされるリスク」を構造的に排除できるのが、立入・吉身・勝部エリアです。
このエリアは利便性が高い一方で、地区計画による「高さ制限(10m以下など)」や「壁面後退」が厳格に適用されています。周囲も低層住宅であることが制度で担保されているため、外部に対しては壁で閉じ、内側に開くコートハウスが、設計意図通りに機能し続けるのです。

条件B:王道・横長平屋(パッシブデザイン)

南面に大きな窓を並べ、深い軒で日射を制御する。日本家屋的な美しさを持つ横長の平屋ですが、これには致命的なアキレス腱があります。
それは「間口(土地の幅)」です。
間口が狭い土地で無理に平屋を建てようとすると、建物は縦長に伸びざるを得ません。すると、南側はLDKで埋まり、その奥にある個室は陽の当たらない北側へと追いやられます。
結果として、中央部分が暗く、長い廊下が面積を圧迫する、「平屋なのにマンションより住み心地が悪い家」が出来上がってしまいます。

播磨田・古高エリア:区画整理された整形地が多く、横長の平屋を配置するのに十分な間口が確保しやすいエリアです。

この失敗を避けるためには、十分な間口が確保された土地が必要です。
播磨田・古高・下之郷エリアは、区画整理によって整備された整形地が多く、間口の広い土地が出やすいのが特徴です。
南面に3台分の駐車スペースと広い庭を並べても、まだ建物に十分な採光を確保できる。あと1メートル間口が足りないだけで破綻するプランも、ここなら余裕を持って実現できます。

条件C:趣味特化型平屋(ガレージハウス・土間)

ビルトインガレージや薪ストーブ、広い土間。趣味を詰め込んだ平屋は魅力的ですが、都市部では「音・匂い・光」の漏れが命取りになります。
夜遅くにガレージで作業をする音、薪ストーブの煙、リビングから漏れる光。
隣家との距離が近い場所では、これらは即座にクレームの火種となり、結局は「気を使って使えない設備」になってしまいます。

水保・速野エリア:敷地にゆとりがあり、隣家との距離が保てるため、趣味の音や光を気にせず暮らせるエリアです。

この「遠慮」を不要にするのが、水保・速野・湖岸エリアです。
地価が安いため、建物に予算を全振りできるのはもちろんですが、最大の価値はその「隣棟間隔」にあります。
隣家と物理的な距離が確保されているため、音や匂いが拡散し、トラブルになりにくい。自分の家で、自分の時間を、誰にも気兼ねなく楽しむ。
「建てられる」だけでなく、「使い切れる」平屋であること。それが、このエリアを選ぶべき理由です。

守山は“平屋という建築思想”が矛盾しない街

平屋は、単に「階段がない家」ではありません。
それは、大地と繋がり、無駄を削ぎ落とし、シンプルに暮らしたいという「思想」の現れです。

その思想は、法規制、地価、地形、そして生活動線のすべてが噛み合って初めて、無理なく形になります。
どこかが欠ければ、それは「狭さを我慢する家」や「予算オーバーの家」になってしまう。

守山は、それらの条件が奇跡的なバランスで揃った、中庸の街です。
階段のない家は、家族の距離を近づけ、老後の不安を遠ざけてくれます。その建築形式を無理なく許容してくれるこの整えられた大地で、地に足の着いた豊かな暮らしを設計してみてはいかがでしょうか。

あわせて読みたい記事

※価格・法規に関する注記:この記事で言及している土地価格の相場や建築費用は、近年の市場動向等を基にした目安の数値です。実際の費用や法的な規制(建ぺい率、地区計画など)は、個別の土地ごとに異なります。
具体的な計画に際しては、必ず地元の不動産会社や建築士、守山市役所の担当窓口(都市計画課等)にご確認の上、ご自身の責任においてご判断ください。

(参照:守山市都市計画マスタープラン守山市の地区計画滋賀県地価調査国土交通省 琵琶湖河川事務所バリアフリー住宅設計指針シルバーピアの住棟形態から見た団らん室の利用に関する研究 等)