湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

なぜ草津で平屋は難しいのか?建ぺい率の壁と水害リスクを乗り越える土地探し

「階段のない、フラットな暮らしがしたい」。
草津市内で土地を探し始めると、その希望が意外なほど高いハードルであることに気づかされます。

平屋を建てられそうな広さの土地が市場になかなか出てこないうえに、見つかったとしても予算と折り合いがつかないことが多いからです。
近年の平屋ブームは滋賀県内でも広がりを見せていますが、草津市においては、他の自治体とは異なる事情が絡み合っています。

大津の坂道がもたらす造成の難しさとも、彦根の景観条例による制約とも違う、草津特有の事情。
それは、高騰する地価と「建ぺい率」という数字が突きつける、費用の問題です。

ここでは、草津で平屋を建てることがなぜ「贅沢」とされるのか、その構造的な理由を紐解きながら、この街でワンフロアの暮らしを実現するための具体的な方法を見ていきます。

この記事のポイント
  • 草津で平屋を建てる最大の壁は建築法規の「建ぺい率」。2階建てより広い土地が必要になる。
  • 駅近で平屋を建てるのは高難度。広い土地を求めるなら、車中心の生活を前提とした郊外エリアが現実的な候補となる。
  • 平屋は水害時の「垂直避難」ができない。ハザードマップと照らし合わせ、土地選びと建築的対策がより重要になる。

直線的なデザインが美しいモダンな平屋の住宅

出典: Integra House by KadimaDesign, licensed under CC BY-SA 4.0.

建ぺい率と地価から見る平屋建築の難しさ

「平屋は高い」と言われる理由は、建物単価の問題以上に「土地の広さ」の問題に行き着きます。
ここで、都市計画法が定める「建ぺい率」というルールが、草津での平屋計画に重くのしかかってくるのです。

60坪の土地が必要になるロジック

建ぺい率とは、敷地面積に対する建築面積(建物を真上から見た広さ)の割合です。
草津市の一般的な住宅地の多くは、建ぺい率が60%、場所によっては50%に制限されています。

例えば、家族4人が暮らすために延床面積30坪の家を建てるとします。
総2階建てなら建築面積は15坪で済みますが、平屋の場合は30坪がそのまま建築面積になります。
建ぺい率60%のエリアで建築面積30坪を確保するには、計算上、最低でも50坪の土地が必要です。

さらに、滋賀県での生活に不可欠な駐車場2台分や、アプローチ、室外機の置き場などを考慮する必要があります。
余裕を持って家を建てるには、60坪から70坪の広さが求められることになるのです。

地価高騰が招く予算の乖離

では、草津市内で60坪の土地を手に入れるには、いくらかかるのか。
滋賀県の地価調査 ↗等のデータを見ても、JR沿線の人気エリア、特に南草津や草津駅周辺では、住宅地の地価が高騰傾向にあります。坪単価が60万円を超える地点も珍しくありません。

仮に坪単価60万円で60坪の土地を買えば、土地代だけで3,600万円になります。
これに建物本体工事費(平屋は基礎や屋根の面積が広いため、坪単価が高くなる傾向があります)を加えると、総額は容易に7,000万円を超えてしまう計算です。
これは、住宅金融支援機構の調査 ↗などで見られる一般的な住宅取得資金の平均値を大きく上回る水準であり、資金計画における最大の障壁となります。

水害時に上階へ逃げられない構造上の課題

費用の問題に加え、草津の地理的特性も平屋には厳しい側面があります。
それは「水害リスク」です。

逃げ場のない1階

草津市の平野部は、旧草津川(天井川)や内湖の干拓地など、水と縁の深い土地柄です。
市が公開しているハザードマップ ↗を確認すると、河川の氾濫や内水氾濫により、床下から床上浸水が想定されるエリアが点在していることがわかります。

2階建てであれば、万が一の浸水時に2階へ避難する「垂直避難」が可能であり、家財の一部を退避させることもできます。
しかし、平屋にはその逃げ場がありません。
一度床上浸水を許せば、生活空間のすべてが水に浸かり、住機能が麻痺してしまうのです。

旧草津川の堤防跡を活用した「de愛ひろば」周辺。かつての天井川の構造上、周囲より土地が低くなっているエリアがあり、内水氾濫への注意が必要です。

高基礎という物理的対策

この懸念に対抗するためには、ハザードマップの想定浸水深を確認し、それよりも床を高くする工夫が必要です。
基礎を通常より高くする「高基礎」や、敷地全体をかさ上げする「盛り土」といった手法があります。

これらの工事には数十万から百万円単位の追加コストがかかります。
また、基礎を高くしすぎると、平屋の利点である「庭との一体感」や「バリアフリー性」が損なわれるという側面も考慮しなければなりません。

立地条件に応じた平屋実現のアプローチ

ここまで厳しい実情を並べましたが、草津で平屋を建てることは不可能ではありません。
優先順位を明確にすることで、実現への道筋が見えてきます。

郊外で広い土地を探す正攻法

駅へのアクセスを諦め、車中心の生活を受け入れるならば、志津、笠縫、常盤といった郊外エリアが有力な候補となります。
地価データを紐解くと、こうしたエリアでは駅周辺に比べて地価が落ち着いており、坪単価30万円台から検討できる場所も見受けられます。

同じ予算で70坪以上の広い土地を確保しやすくなるため、隣家との距離も取りやすく、日当たりや風通しの良い、のびのびとした平屋暮らしが実現できるでしょう。
車で15分も走れば駅周辺の商業施設にもアクセスできるため、生活の質は決して低くありません。

志津小学校周辺の郊外エリア。比較的広い土地が確保しやすく、平屋を検討する上での現実的な選択肢となります。

駅近で建てるコンパクトなコートハウス

どうしても利便性の高いエリアを離れたくない場合、「50坪程度の土地に、中庭(コート)を持つコンパクトな平屋を建てる」という都市型の方法があります。

周囲を2階建てに囲まれることを前提に、外に向かっては窓を減らし、中庭から光と風を採り入れる設計です。
建物は小さくなりますが、廊下を極限まで減らすなどの工夫で、居住スペースを確保します。
この手法は高度な設計力が求められるため、平屋の実績が豊富な建築家や工務店を見つけることが成功の条件となります。

草津駅東口周辺の密集地。こうしたエリアで平屋を建てるには、中庭を活用するなどの高度な設計的工夫が必要になります。

市街化調整区域という例外的な手段

上級者向けですが、市街化調整区域での建築を検討する手もあります。
原則として家を建てられないエリアですが、農家住宅や分家住宅、あるいは既存宅地など、特定の要件を満たせば建築可能な場合があります。

広大な敷地を格安で手に入れられる可能性がありますが、インフラの整備状況や法的な手続きの煩雑さなど、クリアすべき課題は山積みです。
土地探しの段階から、行政書士や建築士と密に連携する必要があります。

琵琶湖に近い下物町周辺。市街化調整区域が広がるエリアであり、開発には法的なハードルがある一方で、広大な土地を確保できる可能性があります。

平坦な市街地で視線と採光を確保する設計

草津で平屋を建てる際、もう一つ忘れてはならないのが、周囲の「視線」です。
平坦な土地に2階建てが建ち並ぶ中で、ぽつんと平屋を建てると、隣家の2階から庭やリビングが丸見えになってしまうことがあります。

これを防ぐためには、軒を深く出して視線を遮ったり、窓の位置を高くする「ハイサイドライト(高窓)」を活用したりする工夫が有効です。
勾配天井を利用して高い位置から光を採り入れれば、カーテンを開け放していても外からの視線は気にならず、空だけが見える開放的な空間を作ることができます。

土地とリスクを見極め、自分に合った平屋を選ぶ

草津市内で平屋を実現しようとすると、土地探しから資金計画まで、2階建てとは全く異なる戦略が求められます。
駅周辺の利便性とワンフロアの快適さを両立させようとすれば、土地と建物で相当な予算が必要になることも珍しくありません。

実現可能な着地点は、やはり「郊外」か「コンパクト化」のどちらかに絞られてくるでしょう。
志津や笠縫まで足を延ばして70坪の土地を探すのか、それとも駅近の50坪で中庭を囲む小さな平屋を建てるのか。
どちらにも難しい部分はありますが、水害リスクへの物理的な備えだけは、どちらの場合でも妥協してはいけません。

基礎を高くし、浸水に備えた平屋は、確かにコストがかかります。
しかし、それは草津という土地で長く暮らすための、必要な初期投資とも言えます。
階段のない暮らしがもたらす日々の安全性と、災害への備え。
この両方を見据え、それでも平屋が良いと思えたときが、具体的な土地探しに踏み出すタイミングなのかもしれません。

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※価格・法規に関する注記:この記事で言及している土地価格や建築に関する規制は、一般的な傾向や執筆時点の公表データを基にしたものです。実際の不動産価格や適用される規制は、個別の土地が持つ条件、法改正、また経済情勢などによって変動します。
土地のご契約や建築計画に際しては、必ず地元の不動産会社や建築士、草津市の担当窓口(都市計画課、建築指導課など)にご確認の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。

(参照:滋賀県 地価調査・地価公示草津市 ハザードマップ住宅金融支援機構 フラット35利用者調査 等)