湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

ハザードマップは保険の設計図:草津の水害リスクと火災保険の賢い付き合い方

草津で無事に土地が見つかり、家のプランも固まった。しかし、その最終段階で多くの人が直面するのが「火災保険」という複雑な契約ではないでしょうか。
実は、あなたが決めたその土地が持つ水害リスクの特性が、これから何十年も払い続ける保険料と、万が一の時に受け取れる補償額を大きく左右することになります。

大津の複合災害彦根の治水の歴史といった、市全体の大きな地形や歴史からリスクを考えるマクロな視点とは少し異なり、草津の保険選びは、近代的な都市開発史の中で生まれた、個々の土地が持つミクロなリスクをどう評価するかが中心になるようです。

ハザードマップで色が塗られていない土地なら、高額な「水災補償」は外してしまっても良いのだろうか。
ここでは、ハザードマップを「保険の設計図」として捉え直し、自分だけの最適な備えをどう組み立てるか、その手立てを探ります。

この記事のポイント
  • ハザードマップは土地選びのゴールではなく、最適な火災保険を設計するための「スタートライン」。
  • 保険料を大きく左右する「水災補償」はオプション。支払い条件(床上浸水or地盤面から45cm)を理解することが不可欠。
  • 近年の制度改正で契約期間は最長5年に。将来の保険料上昇リスクも念頭に置いた計画が重要になっている。

豪雨により道路が冠水し、乗用車が半分ほど水に浸かっている。

出典: Flood affected road (a) by KEmel49, licensed under CC BY-SA 4.0.

住まいの総合保険としての火災保険

保険の具体的なプランを考える前に、火災保険の基本について、一度整理しておきましょう。

まず知っておきたいのは、「火災保険」という名称が少し誤解を招きやすいことです。この保険は、火事による損害だけでなく、台風で屋根が飛ばされた(風災)、雹で窓ガラスが割れた(雹災)、大雪の重みでカーポートが潰れた(雪災)といった、様々な自然災害による損害をカバーする「住まいの総合保険」の役割を果たしています。

損害保険料率算出機構の統計 ↗を見ても、自然災害による保険金支払額は年度によって大きく変動しており、特に風災や水災による支払いが大きな割合を占める年が増えていることがわかります。
そして、ここからが本題です。洪水や床上浸水といった水害への備えである「水災補償」は、多くの場合、基本の補償には含まれていません。
これは追加で加入するオプションであり、火災保険料が年間数万円単位で変動する最大の要因となります。この水災補償を「付けるか、付けないか」が、保険設計の最初の大きな分かれ目になるのです。

支払い条件というもう一つのハードル

最も重要なのが、水災補償の保険金が支払われるための条件です。これは非常に厳格に定められています。

床上浸水、または、地盤面(建物の基礎の上端)から45cmを超える浸水。このどちらかの基準を満たさなければ、たとえ家の基礎周りや庭が水浸しになり、床下に水が入ってきても、原則として保険金は1円も支払われません。

草津市が公開している洪水・内水ハザードマップ ↗でも示されているように、市街地における内水氾濫(下水道の処理能力を超えて水が溢れる現象)のリスクエリアでは、浸水深が数十センチにとどまるケースも想定されています。
この「45cm」という数字は、単なる基準以上の重い意味を持ってくるようです。
この辺りに、保険という仕組みの、ある種の割り切れなさのようなものを感じます。

最近の火災保険を語る上で欠かせないのが、契約期間の変更です。2022年10月以降、それまで最長10年だった火災保険の契約期間が、最長5年に短縮されました。
気候変動の影響で、保険会社が10年先のリスクを正確に予測することが困難になったためです。これは、私たち契約者にとって、「5年後の更新時に、保険料が大幅に上昇する可能性がある」という不確定要素を常に念頭に置く必要があることを意味します。

草津の土地の来歴で考える保険の組み方

この基本ルールを踏まえて、草津市の土地が持つ歴史的な成り立ちと、それに応じた保険の組み方を3つのエリアタイプで見ていきましょう。

琵琶湖岸エリアで考えるべきこと

まず、矢橋町や新浜町といった湖岸エリアについてです。滋賀県の内湖再生全体ビジョン ↗などの資料からも読み取れるように、この一帯の一部はかつて内湖であったり、湿地帯であった場所を干拓して生まれました。
大地そのものが「水と親しかった記憶」を持っている、とも言えるかもしれません。平坦で広大な地形は、ひとたび大雨によって琵琶湖の水位が上昇したり、排水ポンプの能力を超える雨量が集中したりした場合、水が滞留しやすい特性を持っています。

このエリアで家を建てる場合、水災補償を外すという選択は、あまり現実的ではないように感じます。「もしも」ではなく「いつか」の備えとして捉える必要があるのではないでしょうか。
ここでの焦点は「保険金額をいくらに設定するか」。家を完全に建て直せるだけの十分な補償を得るためには、必ず「新価(再調達価額)」での契約が基本になります。

イオンモール草津が位置する新浜町周辺。かつて内湖だった歴史を持つ、広大で平坦な地形が特徴です。

旧草津川周辺で考えるべきこと

次に、大路や西渋川といった市の中心市街地です。このエリアは、かつて周囲の地面より川底が高い「天井川」であった旧草津川のすぐ脇に発展してきました。
街の発展の歴史が、皮肉にもゲリラ豪雨の際に水が集まりやすいという内水リスクを生んでいます。

草津市立地適正化計画 ↗の防災指針においても、このエリアの一部は浸水リスクに対する配慮が必要な区域として認識されています。
想定されるリスク特性は「浸水深は0.5m〜1.0m程度」というケースが多いようです。ここで、先ほどの「床上浸水 or 45cm超」という支払い条件が、再び重要になります。

例えば、家の基礎を通常より高くする「高基礎設計」などの建築的な対策を講じた場合、床下浸水のリスクは残るものの、床上浸水のリスクは大幅に軽減されるかもしれません。「我が家は建築で対策済みだから、高額な水災補償は不要では?」と考えることも、一つの選択肢です。
建築費という「事前の対策」に投資した分、保険料という「事後の備え」のコストを削減する。これは非常に戦略的なリスク管理と言えるでしょう。

旧草津川跡地公園(de愛ひろば)周辺は、内水氾濫のリスクが指摘されるエリア。建築的な対策が保険選びの判断材料になります。

丘陵地の新興住宅地で考えるべきこと

最後に、南草津「かがやきの丘」をはじめとする丘陵地の分譲地です。
ハザードマップ上では洪水・内水リスクは低いとされています。近年の急速な都市開発により、計画的に排水路が整備されていることも大きいでしょう。

こうしたエリアでは、「水災補償を外す」という組み方が、保険料を大幅に削減するための最も効果的な手段となります。
ただし、その決断は、近年の予測不能な集中豪雨などを鑑みた上で、「万が一のリスクはすべて自己責任(貯蓄)で賄う」という覚悟とセットになります。ご自身の貯蓄額やリスク許容度と相談しながら、慎重に決めるべきポイントです。

南草津「かがやきの丘」の中心部。ハザードマップ上では色がついていない、比較的水害リスクの低いエリアです。

リスクに応じた守りの優先順位

「保険に入るか、入らないか」ではなく、「どのリスクに、いくら備えるか」という、自分だけの最適なポートフォリオを組む発想が大切です。

琵琶湖氾濫のような大規模災害が想定される湖岸エリアにお住まいの方や、共働きで日中家を空けることが多いご家庭なら、何があっても生活を再建できるという精神的な平穏を最優先し、最大限の補償を確保する「フルガード型」の組み方には、大きな意味があります。

一方で、ハザードマップ上でリスクが低い丘陵地にお住まいの場合、月々のキャッシュフローを最大化するため、水災補償を外して保険料を抑える「自己資金併用型」も現実的な組み方です。
ただし、これは保険料を払わないのではなく、「浮いた保険料を万が一のための修繕費として計画的に貯蓄する」という強い意志と計画性が求められます。

江戸時代から続く天井川との闘いは、2002年の旧草津川廃川と、その後のde愛ひろばの整備によって、一つの区切りを迎えました。
かつて人々の頭上を流れていた川は、今や市民の憩いの場へと姿を変えましたが、その地形の記憶は、大雨の際の水のリズムとして今もこの街に刻まれています。
ハザードマップは、そうした土地の記憶を現代の科学で可視化したカルテのようなものです。そのカルテを読み解き、最適な「保険」という処方箋を用意すること。
それは、先人たちが水と向き合い続けてきたこの街で、私たちが安心して暮らしていくための、一つの手立てなのかもしれません。

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※火災保険に関する注記:この記事で解説している内容は、火災保険に関する一般的な情報提供を目的としたものです。実際の保険料、補償内容、支払い条件等は、保険会社、商品、契約時期、またご自身の個別の状況によって大きく異なります。
火災保険のご契約にあたっては、必ず保険代理店やファイナンシャルプランナー等の専門家にご相談の上、商品内容や約款を十分にご理解いただき、ご自身の判断と責任において最終的な決定をお願いいたします。

(参照:損害保険料率算出機構草津市洪水・内水ハザードマップ草津市立地適正化計画内湖再生全体ビジョン、各保険会社の商品パンフレット・契約のしおり・約款 等)