湖(うみ)と西の地勢

土地が持つ物語を読み解き、未来の資産を築く。滋賀の歴史と風土に学ぶ、住まいと土地の視点。

数字の裏側にある現実:栗東の「保活」から逆算する、後悔しない土地選び

「草津はもう、保育園に入れないらしい」。
そんな噂を耳にして、ふと隣街の栗東市に目を向けるご夫婦がいます。

電車でわずか一駅。新快速は停まらないけれど、その分、土地の価格は抑えられる。「ここなら、子どもを預けて働けるのではないか」。そんな切実な期待を抱いて。

その直感は、半分正解で、半分は少し楽観的かもしれません。
栗東市の保活(ほかつ)は、椅子取りゲームの様相を呈する草津とは違い、もう少し穏やかです。しかしそこには、「車」という道具を使いこなせるかどうかが勝敗を分ける、独自の作法が存在するからです。

駅前のマンション群と、古くからの集落が混在するこの街。後悔しない土地選びの第一歩は、まず保育園の場所から逆算して地図を読むこと。
数字の裏側にある栗東保活のリアルと、それを踏まえた土地探しの戦略について、少し掘り下げてみます。

この記事のポイント
  • 栗東の保活は「駅周辺の局所的な激戦」と「郊外の車社会」という二重構造で成り立っている。
  • 徒歩送迎が基本の草津とは異なり、栗東では「送迎用駐車場の有無」が日々のストレスを大きく左右する。
  • エリアから選ぶのではなく、「通わせたい園」と「通勤ルート」から逆算して土地を決める視点が重要。

栗東市内の公園にある遊具。子どもたちが遊べる環境が整っている。

出典: 栗東駅前第3号公園の滑り台 by Ohmishonin, licensed under CC0 1.0

栗東保活に見る草津とは違う競争の形

まず、栗東市の待機児童の現状について、少し解像度を上げて数字を眺めてみます。
市の幼児課が公表するデータ ↗などを見ると、待機児童数は「ゼロ」あるいは極めて少数と発表されることが多く、一見すると「保育園に入りやすい街」のように映ります。

ただ、この「ゼロ」という数字を、そのまま安心材料として受け取るのは少し早計かもしれません。
ここには、行政の定義上カウントされない「保留児童(隠れ待機児童)」が含まれていないからです。こども家庭庁の定義 ↗では、特定の園を希望して入れなかった場合や、やむなく育休を延長しているケースは待機児童から除外されることがあります。数字の上では待機していなくても、家庭の中では「預けられない」という現実と向き合っているケースが少なくありません。

特に顕著なのが、エリアによる極端な温度差です。
JR栗東駅周辺(綣・霊仙寺エリア)や手原駅周辺は、近年のマンション建設により、子育て世帯の密度が急上昇しています。このエリアの人気園、特に0歳〜2歳児クラスの倍率は、隣接する草津市の認可保育施設の空き状況 ↗に見るような激戦区と、実態はさほど変わりません。

一方で、駅から車で少し走った郊外エリアでは、定員に空きがある園も散見されます。
つまり、栗東の保活の難しさは、「街全体で数が足りない」ことではなく、「住みたい駅前エリアに限れば圧倒的に足りない」という、需給のミスマッチにあるようです。

車社会の作法と徒歩を捨てるという発想

栗東で土地を探す際、もし「駅から歩いて保育園へ行き、そこから電車で通勤する」という草津的なスタイルを想定しているなら、少し軌道修正が必要かもしれません。

栗東は、国道1号線や8号線、バイパスが縦横に走る、完全な車社会です。
この街での保活を左右するのは、徒歩分数ではなく「駐車場」です。

多くの保育園には、送迎用の駐車場が確保されています。
これは、草津の駅近保育園では望めない、栗東ならではの大きな利点。ただ、園によっては台数が限られていたり、朝の時間は混雑したりすることもあるため、事前の確認は欠かせません。

雨の日の朝を想像してみてください。
子どもを抱え、荷物を持ち、傘をさして駅まで歩く苦労。対して、自宅のカーポートから車に乗り込み、保育園の駐車場に停めて、濡れずに子どもを預けるスムーズさ。
このストレスの差は、毎日のこととなれば、生活の質を劇的に変えてしまいます。

草津が「駅へのV字移動」による時短を狙う街だとすれば、栗東は車による「周回移動」で、空間的なゆとりを手に入れる街。そんな見方もできるはずです。

エリアと働き方で変わる戦略

具体的な土地選びのシミュレーションをしてみましょう。
働き方によって、選ぶべきエリアと保活の戦略は明確に分かれます。

【駅近・電車通勤派】栗東駅・手原駅周辺

夫婦ともに京阪神へ電車通勤しており、駅へのアクセスが絶対条件の場合。
栗東駅(綣・霊仙寺)や手原駅(安養寺)周辺が候補になりますが、ここは市内でも最も競争が激しいエリアです。

ここを選ぶなら、認可保育園だけでなく、駅近くの小規模保育事業所や企業主導型保育園なども視野に入れた、多角的な作戦が求められます。土地価格も高いため、建物予算とのバランス感覚も試されることになります。

栗東駅周辺。マンションや商業施設が集積し、保育園の競争率も高いエリアです。

【車通勤・市内勤務派】国道8号線・バイパス沿線

車通勤、あるいは市内や近隣の工業団地に勤務している場合。
大宝や葉山、治田といったエリアは、駅から少し離れる分、園庭の広いゆったりとした保育園を選びやすくなります。

鍵となるのは、朝の渋滞を考慮した配置です。
特に、朝8時前後の「国道1号線と8号線の合流付近」や主要交差点は混雑のメッカ。ここを避けるルート上に自宅と園を配置できれば、毎日の送迎は驚くほどスムーズになります。「通勤ルートの途中に、駐車場が広い園があるか」。この視点が、土地選びの納得感を高めます。

大宝・葉山エリア。国道8号線やバイパスへのアクセスが良く、車での送迎を前提とした生活に適しています。

入りたい園が住所を決める逆算の土地選び

「いい土地が見つかったから、近くの保育園を探そう」。
待機児童問題のある現代において、この順番はリスクが高い。後悔しないためには、発想の転換が必要です。

  • 1. 教育方針を決める のびのび遊ばせたいか、プログラム重視か。栗東には園庭の広い公立園から独自方針の私立園まで選択肢があります。
  • 2. 園をピックアップする 方針に合い、かつ「送迎用駐車場」がある園をリストアップします。現地確認は必須です。
  • 3. ルートを実走してみる ここが最重要。候補の園から土地、職場までのルートを、朝のラッシュ時に走ってみること。地図上の距離と時間は、渋滞の前では意味をなしません。
  • 4. その動線上で土地を探す 実走の結果、無理なく通える範囲で土地を探す。「土地は買えたけれど、毎日の送迎が地獄」という事態は、この手順で防げます。

また、栗東ならではの「隠し球」として、祖父母との近居・同居も検討の価値があります。
草津ほど地価が高騰していないこの街なら、広い土地での二世帯住宅も現実的。サポートが得られれば、送迎問題は一気に解決し、園の選択肢も広がります。

妥協ではなく賢い戦略的な意思決定

草津の駅近タワーマンションで、都会的な子育てをする。
それも素敵なあり方ですが、栗東で車を使いこなし、広い園庭のある保育園に通わせ、雨の日も濡れずに送迎する。
これもまた、非常に合理的で、人間らしい子育ての形です。

先日、栗東の国道沿いにあるコーヒーショップで、仕事前の準備をしている人たちを見かけました。
手帳を広げ、一日のスケジュールを確認する彼らの横顔には、都会の喧騒とは違う、自分の時間をコントロールしている落ち着きがあったような気がします。
車というパーソナルな空間で移動するからこそ持てる、朝のわずかな余白なのかもしれません。

草津の競争から降りることは、敗北ではありません。
それは、自分たちの家族にとって何が「快適」かを考え抜き、車社会の利点を最大限に活かすという、賢い選択です。

保活と土地選びを別々に考えず、一つのプロジェクトとして進めること。
そうすれば、栗東という街は、共働きのご家族にとって、かけがえのない「ちょうどいい」居場所になってくれるはずです。

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※保育施設に関する注記:この記事で言及している待機児童や施設の状況は、執筆時点の公表データや一般的な傾向を基にしたものです。実際の空き状況や入園基準は、年度や個別の施設によって大きく異なります。
土地のご契約や入園の計画に際しては、必ず栗東市の担当窓口(幼児課など)で最新の公式情報をご確認の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。

(参照:栗東市 幼児課草津市 認可保育施設の空き状況こども家庭庁(保育所等関連状況取りまとめ) 等)