草津市の隣、安定したベッドタウンとして知られる栗東市。
穏やかな住まいのイメージが強いこの街でハザードマップを開くと、市内のいくつかのエリアに、はっきりとした色が塗られていることに気づきます。この色の背景には、栗東の地形を形作る「河川」と「丘陵地」という、二つの水の顔が隠されています。
ここでは、マップの色をなぞるだけでなく、旧東海道の先人たちがそうしたように、土地が持つわずかな高低差や水の流れを読み解き、現代の技術で安全を確保するための知恵を探っていきます。
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この記事のポイント
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出典: Haruta-ohashi bridge by 運動会プロテインパワー, licensed under CC BY-SA 4.0。
平野部を潤し、時に溢れる川の流れ
栗東市の市街地の大部分は、草津川水系に属する河川が形成した平野部です。
このエリアの危険性を理解するには、川の性質そのものに目を向ける必要があります。
葉山川・金勝川がもたらす洪水リスク
栗東市を流れる葉山川や金勝川は、南東の金勝山系を源流としています。
山の麓を流れる川には、特有の性質があります。勾配が急で、大雨の際には土砂を含んだ速い流れが発生しやすい「山地河川」に分類されます。この水が平野部で一気に広がることで、洪水の危険が高まるのです。
栗東市総合防災マップ ↗を見ると、JR栗東駅の北側に広がる平野部の、特に小柿(おがき)、辻、大橋といったエリアでは、場所によって0.5mから3.0mに達する浸水が想定されています。
特に、複数の河川が合流する地点では、水位が上昇しやすいため注意が必要です。
建築で危険に備えるなら、想定される浸水深よりも居住空間を高くすることが基本になります。
基礎を通常より高くする「高基礎設計」や、土地全体をかさ上げする「盛り土」などが有効ですが、これらは追加のコストを伴います。
JR栗東駅の北側に広がる平野部。葉山川などが流れ、洪水浸水想定区域に指定されているエリアです。
市街地に潜む内水リスク
川から離れた市街地でも安心はできません。
短時間の集中豪雨で排水が追いつかずに浸水するのが「内水氾濫」です。
特にJR栗東駅周辺(綣、安養寺の一部)は、急速な市街化によって地面の多くがアスファルトで覆われ、雨水が浸透しにくくなっています。
雨水出水浸水想定区域 ↗においても、駅周辺の市街地で場所によって0.5m未満(くるぶし〜膝下程度)の浸水が想定されています。床上浸水に至らないまでも、車の水没や、床下浸水による建物の劣化は十分に考えられるでしょう。
JR栗東駅周辺の市街地。都市化により、内水氾濫のリスクを考慮する必要があります。
金勝山がもたらす恵みと、もう一つの顔
市の南東部に広がる金勝山系の丘陵地は、豊かな自然が魅力ですが、同時に土砂災害の危険と隣り合わせのエリアです。
丘陵地の土砂災害リスク
市のハザードマップでは、井上、荒張(あらはり)、走井といった金勝山の麓に位置するエリアで、土砂災害警戒区域が指定されています。
特に注意すべきは「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」です。もし検討している土地がこの区域に含まれる場合、建物の構造に厳しい制限(例:外壁を鉄筋コンクリート造にするなど)がかかる場合があります。
栗東市の土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域(土石流) ↗などの詳細情報を確認し、敷地がイエローゾーン(土砂災害警戒区域)であれば、建築上の直接的な規制は少ないものの、危険がゼロになるわけではありません。
敷地内に古い擁壁がある場合は、契約前に建築士などの専門家に依頼し、ひび割れや傾きがないか、水抜き穴が機能しているかを診断してもらうことが、安全な家づくりの上で極めて重要です。
市の南東部に広がる金勝山周辺。豊かな自然と隣接するエリアでは、土砂災害への注意が必要です。
旧東海道が示す、歴史的な安全ライン
ここで少し面白いのは、ハザードマップと古地図を重ねて見ることです。
栗東市内を東西に貫く旧東海道。その道筋をたどると、多くの区間で比較的色が薄い場所を選んで通っていることがわかります。
これは、先人たちが経験的に見つけ出し、集落や街道を築いてきた「微高地」の存在を示唆しているのかもしれません。
例えば、手原駅の南側に位置する旧東海道沿いの目川(めがわ)の集落などは、周囲の田園地帯よりわずかに標高が高く、それが水害から人々を守る役割を果たしてきた可能性があります。
ハザードマップの色だけでなく、こうした土地に残された「先人の知恵」を読み解くことも、土地の安全性を測る上での、もう一つの物差しになるようです。
旧東海道が通る目川周辺。ハザードマップ上でも比較的色の薄い、微高地に位置していることがわかります。
水の描いた線、人の選んだ道
旧東海道のルートを改めてなぞると、湿地を嫌うように、周囲よりわずかに高い微高地を選んで続いていることに気づきます。その古の足跡に触れると、ハザードマップの鮮やかな着色が、単なる警告の色とは少し違う意味を持ち始めるようです。
そこにあるのは、恐怖というよりは、この土地が本来持っている呼吸のようなもの。
かつての旅人が足裏の感覚で水気を避けたように、現代の私たちは基礎の高さを吟味し、保険という雨具を整えることで、その呼吸に暮らしを合わせることができます。
雨の音を枕元で聞きながら、それでもこの街の静けさを愛せるかどうか。
その分かれ目は、土地の記憶を正しく理解し、それに見合う備えができているかどうかにあるはずです。
栗東で家を建てる全体の流れを確認する
この記事では、栗東の買い物事情とライフスタイルについて解説しました。この知識を、資金計画や家の設計にどう繋げていくべきか、全体像を把握してみませんか?
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※ハザードマップ情報に関する注記:この記事で解説している内容は、執筆時点の公表資料に基づく一般的な傾向や可能性を述べたものです。ハザードマップや警戒区域の指定、建築に関する規制は、最新の知見に基づき更新されることがあります。
土地のご契約や建築計画に際しては、必ず栗東市の公式サイトで最新のハザードマップをご確認いただくとともに、担当窓口や、建築士・地盤調査会社といった専門家にご相談の上、ご自身の責任において最終的な判断をお願いいたします。
(参照:栗東市総合防災マップ、栗東市(土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域の指定について)、栗東市の土砂災害警戒区域および土砂災害特別警戒区域(土石流)、雨水出水浸水想定区域の指定について、ハザードマップポータルサイト 等)